第五話:後ろから迫る影

「10日間もあいつを遠征に出して悪かったな。一人は大変だろ?」

「大丈夫ですよ、ピオニーさん」

ジェイドさんが遠征に出掛けてから一日たった昼頃、ピオニーさんが様子を見に来てくれた。

どうやら責任を感じているらしいが、私はそんなことを気にしていない。

「たった10日です。それに寂しくならないように約束してくれましたから」

「約束?ジェイドが?」

「遠征から帰ってきたら私達、結婚することになったんです」

「なんだって!?そいつはめでたいな!」

「はい。だから頑張れます」

「ま、寂しくなったらいつでも宮殿に来い。もてなしてやる」

「はい。ありがとうございます」

「ああ、それと…」

ピオニーさんは思い出したといったように手を叩く。

それから真剣な顔になった。

「実は最近行方不明になる人達が増えててな。家に一人でいた人ばかりが狙われているんだ。だから気を付けろ。戸締まりはちゃんとして、不審人物が来たらすぐに知らせろ。いいな」

「…はい」

ピオニーさんが言うように確かに街で行方不明になった人達がいるのを聞いていた。

年齢とかは疎らだけど、殆んどの人間が一人でいた時に狙われたらしい。

そしてジェイドさんが、その背後に人身売買をしている集団がいると言っていた。

「陛下。もう宮殿にお戻り下さい」

「ん?おまえはジェイドの部隊の…、遠征に行かなかったのか」

ピオニーさんを連れ戻しに来た人は女性で、ジェイドさんの部隊の人らしい。

「はい。私は彼女の護衛をするようにと大佐に言われて残ったんです」

確かにジェイドさんが誰か一人護衛につけると言っていたから、この人がそうらしい。

「そうか、ジェイドも婚約者には甘いんだな。では、ルーシーを頼む」

「そう言って逃げようとしないで下さい。陛下」

「げっ、アスラン…」

彼女にそう言い逃げようとしたピオニーさんを後から来たアスランさんが止めて連れて帰る。

ジェイドさんの部下の彼女はノアさんといって、数少ない軍人女性だからと私の護衛に選ばれたという。

それから彼女が毎日家に来てくれて、女の子トークなどをして楽しんだ。

楽しかったからすぐに日にちはたって、ジェイドさんが帰ってくるのが明日になった。

「やっと明日大佐が帰ってきますね」

「はい!あ、ノアさん。聞いてもいいですか?」

「なんですか」

「あの、結婚したら必要になるものってあるんでしょうか…」

「…結婚、するのですか?大佐と…」

「はい。明日ジェイドさんが帰ってきたら近々に式をあげる予定で…///」

「そうですか…」

ノアさんは結婚に必要な知る限りのことを教えてくれた。

必要になるもの、そして花婿の為に花嫁が針を入れた衣装をもって嫁ぐと幸せになれるということも教えてくれた。

裁縫は得意だったので、私はジェイドさんに送るために衣装をつくることにした。

明日にでもピオニーさんに相談してみよう。

「ルーシーさん」

「あ、ノアさん。どうしたんですか?こんな夜遅くに」

夜の10時程を過ぎた時、帰ったはずのノアさんが訪ねてきた。

私はすぐに玄関に向かい彼女を迎え入れた。

「あなたに用事がありまして」

「そうなんですか?あ、お茶をいれますね。少し待っていて下さい」

そう言って私がノアさんに背中を向けた時だった。

「…本当、軍人だからと言って皆油断してくれて助かるわ。仕事がしやすいもの」

「…え?」

ガッ!

突然頭に鈍い衝撃があり、衝撃で車椅子から落ちてしまう。

「ノ…ア、さん…?」

「馴れ馴れしく名前で呼ばないでくれる?私あなたが大嫌い!私の大佐を奪う雌猫。本当、嬉しいわ。仕事の報酬は貰えるし、邪魔者は排除出来るし」

話を聞く限り、例の人身売買集団の協力者らしい。

こうして軍人の身分を利用して信用した時に誘拐するのだ。

けど理解した時にはもう遅い。

(ジェイドさん…)

高らかに笑うノアさんの声が屋敷に響く中、私は意識を失った。


 

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