頭に冷たい感触がして目が覚めた。

頭が痛いし、意識を取り戻してからすぐだったので目がぼやけてまわりが良く見えない。

「っ…、ここは…」

「ああ、気がついたのね。良かったわ」

「ここはどこかの倉庫みたい。あなたも拐われて来たのよ」

複数の声が聞こえてから視界が回復して周りを見渡すと、薄暗い部屋の中に私と同じくらいの女性が数人いた。

「そうか、私はノアさんに殴られて…」

「あの軍人ね。まさか軍人が共犯者だったと知らないで私たちも引っかかってしまったの。…まだ痛い?」

「あ、大丈夫です。ありがとう」

一人の女性が殴られた頭に冷えたハンカチを当ててくれていたようで、お礼を言う。

つまりは皆彼女に騙され捕まったのだという。

どうもここは街の地下にあるもう使われなくなった倉庫のようで、声を張り上げても誰も助けが来ないらしい。

「私たち、助からないのかしら。このまま売られて…」

「大丈夫です!きっと助けが来ます。ジェイドさんがきっと助けに来てくれます」

私が家に居ないことを知れば、きっと探してくれるはず。

そう言うと、彼女たちは気持ちが浮上したものの、ジェイドさんが軍人だと言えば再び絶望する。

「もう、軍人なんて信用出来ないわ」

「そんな…」

希望を失った皆の中には泣き出す人も出てきて、この空間が絶望で埋め尽くされる。

必死に話し掛けても、もう声は届かなくなっていた。

そんな彼女達に私が出来ること…

「…涙を拭いて、歩いて行こう♪必ずそこに道はあるから♪諦めず進めば開けるさ♪明るい未来へと続く道…」

それは歌で励ますこと。

そして、この歌がジェイドさんを導いてくれるように。

…ジェイドさん、私はここにいます。



『〜♪〜〜♪』

「歌…?」

例の部下を取り調べ、人身売買集団のアジトを突き止めて今から突入するという時、ルーシーの歌が聞こえた気がした。

「大佐?どうなさいましたか」

「…いや、なんでもない。準備は整ったか」

「は!各自配置に着きました。いつでも突入可能です」

アジトである地下へと続く複数の階段に兵を配置し、一気に攻める作戦だ。

これには失敗は許されない。

「敵を取り抑え、捕らわれている人達を救出せよ。敵は一人たりとも逃がすな」

指示を出すと同時に一斉に地下へと突入し、すぐに戦闘が開始される。

軍が来たことに動揺し、逃げ惑う奴らを一人残らず取り抑えるこてに成功したのは突入してから一時間ほどたった時だった。

次に捕らわれた人の捜索に当たるも、地下は道が複雑にいりくんでいて捜索が困難になっていた。

その時、かすかに歌が聞こえてきた。

本当に耳を澄ませないと聞こえない小さな声だが、私にはすぐにわかった。

ルーシーの歌だと。

「こっちだ」

「大佐?」

微かに聞き取れる歌を頼りに複雑な道を進んでいくと、一つの扉に辿り着いた。

そこから聞こえてくる私をここへ導いた歌声。

私はすぐに扉を開けた。

「私はマルクト帝国軍第三師団師団長ジェイド・カーティス大佐です。助けに来ました」

「…助け…、やったわ!家に帰れる!!」

「ああ!ユリア様!!」

そこには数人の行方不明になった者達が、涙を流しながら喜んでいた。

すぐに部下が彼女達を保護していく中、私は座り込んでいるルーシーの傍に近寄る。

「ジェイド…さん…?」

「10日振りですね。怪我はありませんか」

「ジェイド、さん…」

私に伸ばす手を取り、抱き締める。

その体は微かに震えていた。

「ルーシーの歌がここまで導いてくれました。頑張りましたね」

「…ジェイドさん。…私を見つけてくれて、ありがとう、ございます…」

逢いたかった。

そう言って彼女は私の胸を借りて泣いた。


 


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