巡礼者帰還

語り終えて、私は食器の片付けや掃除をし始めた。

多分日にちからして巡礼に出ているアンジュが帰ってくる頃だと思うから。

掃除をしていないとわかったアンジュに黒い笑みで迫られたくないし、ね。

『あらぁ?せっかくわたしが居場所のないあなたを教会に置いてるのに、何にもしてないなんてね。働かざる者食うべからず、って言うよね?詩ばからしている人は、ここに置いておけないな?』

うう、あの周囲が冷たくなる感覚は恐怖のなにものでもないよ。

私はその日にアンジュに逆らうことなかれ!と誓ったのだ。

「ただいま」

「ひぃ?!あ、アンジュ!…おかえり〜」

考えていたらアンジュが帰ってきていて、わたしが働いているのを見ていい笑顔になる。

「うん、よしよし。しっかり働いてるね。お疲れさま」

「アンジュ!お帰り!!」

「ただいま。みんな」

村にいたみんなが帰ってきてアンジュを見つけて群がり出す。

多分みんなアンジュの旅の話を聞きたいだろうから、私はお茶の用意を始める。

「で、アンジュ。その…この村の外はどんな感じだったの?」

先頭を切ってルカが尋ねると、今まで笑顔だったアンジュの顔に影が出来る。

「各地で星晶を巡って国同士の争いが起きているわ」

「世界中で?そんなにも戦争が起こっているの?」

とエミルが聞く。

「世界樹が生み出したとされる星晶…。土地に恵みを与えるマナを出すエネルギー鉱物…」

ロックスは改めて星晶の価値を呟く。

星晶はマナを出すエネルギー鉱物として言われてるけど、その実なぜ世界樹が星晶を作ったのかは誰も知らない。

…知ろうともせず、エネルギー欲しさに搾取している。

「星晶がある小さな国や村は力のある大国にそれらを搾取されるがまま…。星晶を採りつくされて土地は荒れて、作物なんかまるで育たなくなっていた。星晶が世界の主要エネルギーに変わってから文明は急成長したというけれど、その採掘権を巡って各国の関係は悪化するばかり。星晶を得て大量消費国となった国は星晶のない国や村を、植民地化したり、労働を強いたりしているんだよ。富める国と貧しい国の差は開く一方だわ」

「ひどいな…」

「この村だけじゃないんだな。世界中のあちこちでみんな苦しんでんだ」
そうカイウスとリッドが言う。

アンジュの話に、やはりみんな空気が重い。

それもそうだ。
この村だって他の村よりはまだましだけど、その生活は厳しい。

ここにいる大半の住人は、星晶が採りつくされ村に住めなくなった人達の集まりなんだ。

人事じゃないんだよね。


 

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