私が王族のごきょうだいと知り合ったのは年齢が二桁になる少し前のこと。第二王女、カムイ様の失踪事件が起きたしばらく後のことだ。カムイ様の遊び相手として選ばれたことがきっかけだった。なんでも、カムイ様の遊び相手に選ばれていた少年がカムイ様を連れ出したらしい。体の弱いカムイ様は、結界に守られた塔から出ることができず、ずっと閉じ込められて暮らしている。病弱というのは建前で、実は血の繋がっていない敵国の王女を捕虜にしているなんて噂も実しやかに囁かれているのだけれど、ガロン王のお怒りを買うのが怖いからその事実はなかったことにされている。もしかしたら、どこぞのご令嬢の忘れ形見を溺愛しているのかもしれないしね。

 私が選ばれた理由はいくつかある。一つ、城に出入りできる身分であったこと。そして女の子であったこと。二つ、とてもおとなしく大人の、特に王族の言いつけには絶対従うこと。三つ、私が家にいない方が親にとって都合が良かったこと。カムイ様と年の近い貴族の娘はピエリもいたけれど、彼女はとある事件で心を壊してしまったのでカムイ様に悪影響を与えると判断されたらしい。様々な要素が合わさって、幸運にも私は王族の皆さまと――レオン様と、出会うことができたのだ。


「シャルロッテ、きょうはなにしてあそぶ?」
「そうですね、おにんぎょうあそびをしましょう」
「ええ、それきのうもやったよ!」


 カムイ様と遊ぶときはなるべく女の子らしい遊びを、とお父様から注意された。遠い昔、私の一族の領地が飢饉で困っているときに王族の方が竜脈で救ってくださったらしい。その恩恵は今でも続いていて、だから私の一族は他の貴族より少しだけ裕福なのだと。だから私は王族に恩を返すのだと、そう言われてきて育ってきた。お父様はきっとガロン王から命じられたのだろうし、それを守らないわけにはいかない。活発なカムイ様は大人しい遊びが毎日続くと不満になるみたいだが、定期的にやって来るレオン様とマークス様がおいかけっこをしたり、剣の稽古をつけてくださるのでなんとか上手くやっていける。


「……では、レディらしいあそびはどうでしょう?」
「いいね!」


 カムイ様は、幸いなことに女の子らしい遊びも嫌いではない。カミラ様がもって来てくださるドレスやアクセサリーに興味があるようだし、新しい髪の結い方を研究するのも好きだ。少し機嫌を損ねたカムイ様に私たちの中で最近はやりの言葉「レディらしく」の魔法をかける。すると彼女はにやっと笑って、それを合図に私たちだけの内緒の遊びが始まるのだ。

 同い年の友達がいなかったのは私もなので、ここでの生活はとても楽しかった。執事もメイドもごきょうだいの愛もすべてはカムイ様に向けられたものだったけれど、そのおこぼれの愛、穏やかな時間、優しい時間の恩恵はしっかり私にもあったからだ。日の差さない国、争いの絶えない国、暗夜王国。私たち一族に与えられた領土は他よりは豊かだけれどいつまた失われるかもわからない。暗い未来しか見ることのできない王国は、根っこは優しい人々すら精神の余裕が無くなって狂ってしまう。私はそれを知っている。だから、そんな現実から目を背けることのできるこの場所が好きだった。

 人質の部族長の娘たちと、捨てられた貴族の息子と、王に逆らった臣下と、不穏な噂の絶えない姫君。出世からかけ離れたものたちで構成される北の要塞は、王族の皆さまからしたら唯一の楽園だったのかもしれない。貧しい国で飢えないためには権力が必要だ。正妃はたった一人だけれど妾はたくさんいる。妾の子も王族としてみなされるのだから、きっとあそこは戦場だ。


「ねえ、シャルロッテ、今日は何する?」


 幼い頃のまま、変わらず純粋に育ったカムイ様がいる場所こそが、きっとこの世の最後の楽園なのだ。