呪いをあげようと思ったのは、倶利伽羅くんがキーホルダーをくれたからだった。なんの前触れもなく突然に渡されたそれ。理由を問えば、無事にテスト期間が終わって、この間家に遊びに来てくれたメンバーで遊びに行って、その時にゲームセンターに寄って、とったからと答えが返ってきた。なんでも、自己採点した結果かなり点数が出ていたのだと。だからそのお礼だと倶利迦羅くんは言ったのだった。男の子が使うには愛らしすぎるそれを見て、わざわざ私のためにとってくれたことが嬉しかった。
 しかも、それだけじゃない。部活に入らずバイトをしている倶利伽羅くん。食費も入れているし、きっと今長谷部おじさんに出してもらっている学費なども将来的に返すためのバイトだろう。そんな状態なのに、私に対して気を遣ってくれた、それが嬉しかったのだ。

「……自惚れてもいいのかな」

 私が倶利迦羅くんにとって特別だと。長谷部おじさんの――お世話になっている人の名だから気を遣っているのではないんだと。私には彼の心の内がわからない。それはきっと私が彼に自分の心を曝け出してないのもあるだろう。今の関係の居心地が良すぎて壊れるのが怖くなるからできないのだ。でも、その恐怖を振り払って私が一歩を踏み出さないと倶利迦羅くんとの間にある透明な壁は振り払うことができない。ここまま卒業してしまえば何も跡を残さず倶利伽羅くんは消えてしまうだろう。その前に捕まえなければ。


「倶利伽羅くん、これ、この間のお礼」
「お礼?」

 長谷部おじさんが帰ってくる前。バイトから帰宅した倶利迦羅くんにラッピングされた包を渡した。別に礼を言われることなんてしていない、と倶利迦羅くんは突っぱねたが、せっかく買ったのだからと無理を通す。

「……マグカップ?」
「うん。シンプルでいいでしょう。色違いで長谷部おじさんと私の分も買ったんだよ。だからお礼とはちょっと違うんだけど……」

 友達とお揃いで買った筆箱が変えにくいと思ったときに思いついたのだった。誰かとお揃いのものは枷になる。

「そういうことならありがたく使わせてもらう」
「えへへ、ありがとう。嬉しいよ」

 倶利伽羅くんは優しいから、私の気持ちを無下にすることはないだろう。その読みは当たった。今日から早速使おうね、一回洗いたいから貸して、とあげたものを再び受け取った。
渡されたマグカップを見て、こんなに割れやすくて軽いけれど重りになってくれたならいい、と思う。私が倶利伽羅くんのくれたキーホルダーを見るたびに胸が締め付けられるのと同じように、食卓でこのお揃いのマグカップを使うたびにここが自分の居場所だと思い知ればいい。いつか出て行く時に、ここでの思い出や持っていくものがいっぱいで重くて動けなくなればいいと、そんな気持ちを込めて私は倶利伽羅くんを呪ったのだった。