「どうか我らの新しい主になってはくれまいか」

 次の日、昨日の広間に呼び出されて告げられた言葉の重みを噛み締める。昨日とは異なり、向けられる視線はひとつに統一されていた。

「戦場で折れるのは怖くない。むしろ誉れである。けれども、こうして人としての感覚を知ってから元の姿に戻るのは怖い。いつか、その身朽ちるまで、この感情を持て余したまま生きねばならぬのは余りにも酷ではないか」
「分かりました。それが貴方たちの総意なら、私も覚悟を固めましょう」

 わっと歓声が上がる。これからよろしくね、と、人懐っこく声をかけてくれるから、少しだけ安心した。ピリっとした空気が消えると、彼らは外見通りの普通の男の子なのである。一通りみんなとの挨拶を終え、政府に連絡するために退室すると後ろから気配が追いかけてくる。

「いいのか」
「国広さん」
「その……じいさんと違ってお前にはまだ、」
「……こう言うと覚悟がないって言われるかもしれないのだけど、卒業までとはいかなくても区切りのいいところまで学校に通わせてもらえないか頼むつもり」
「よくない」
「分かってるよ。でもこれからの人生全部貴方たちにあげるから、ちょっとだけ、許してくれない?」
「……仕方ないな」
「ありがとう」

 そうと決まればすることは山のようにある。まずは政府に連絡して、本格的な引き継ぎの処理をしてもらって、学校に行く許可も貰わなきゃ。



「あの、国広さん」
「なんだ」
「学校に付き添ってもらうならどの方がいいですかね……」

 一応、許可は出たのだ。まだ未成年だということと突然に引継ぎで覚悟も決まっていなかったという事情を考慮し、お情けで長期休暇に入るまでは通わせてもらうことになった。その際の条件として護衛として刀剣男士を連れて行くこととの指示が下った。皆古い時代の人だからこっちの常識とか知らないだろうし、適応力の高そうな人を選んでもらうつもりだったんだけど。

「俺が行く」
「えっ、いいの?」
「ああ。後は刀の姿に戻して小夜を連れて行けばいいだろう」
「二人も?」
「どうせ多くは連れていけないんだろう?」
「よくご存知で」
「あいつらの考えることならわかる」

 その言い方がとても棘のあるように聞こえたのは私の気のせいだろうか。とにかく護衛が決まったのなら話は早い。国広さんの格好は武具を外して布を剥げばどこかの学校の制服に見えるし、外見も留学生で通じるので目立ちはするけど不自然ではないからだ。あっさり決まって良かった〜と思ったのも束の間、人生そう思い通りにいかないものである。

「じゃあ護衛の時にその布は洗濯してしまおう」
「え?」
「えっ」

 素早く身を翻し脱兎のごとく逃げ去る国広さんを捕まえるまで、そうとうな時間がかかった。




「信じられない……」

 説得の末に彼から布を引き剥がすことに成功し、ついでのズボンの破れているところも繕い、シャツも似たデザインの新しいものに変わった国広さんはイケメンオーラを振りまいて街を歩いている。「視線を感じる……やはり俺が写しだということはどこにいても分かってしまうのか……」などとネガティブオーラ満載のなのにもかかわらず憂いのある感じがとってもセクシーに見えていた。注目を集める国広さんの隣を歩いていると嫌でも私まで注目を浴びる。できるだけ早足で職員室に飛び込むと校長室に連れ去られた。

「転校生!? いくらなんでも無理がありませんか!?」
「朝霧さん、落ち着いてください。長期休暇までとなるとあまりに期間が長く、彼が学校にいる口実も難しいのでそれならいっそ転校生にしてしまおうかと話が決まりまして」
「そんなの……」
「学校側としてもこれ以上の措置は」

 云々。政府からの圧力で無理を言っているので強くも言えないのである。私は、まあいいのだけれど、問題は国広さんだ。何も文句を言わないのを状況が飲み込めていないからだと推測し、簡単に説明すると案の定頬を蒸気させて怒鳴った。

「聞いてないぞ!!」

 わかる。人前に出るのなんて嫌だ、別室待機で何かあれば小夜が時間を稼いでその間に俺が駆けつけてだから小夜を刀の形に戻してなんて言っても大人に逆らえる訳もなく、彼は転校生として私のクラスに叩き込まれることになったのである。南無。