「お前ら、なんだかんだ仲良いなあ」
「そう、ですか?」
「そんなことない」

 初日からずっと近侍をつとめてくれている国広さんと、書類の仕事をしている私を見て兼定さんが言った。特に雑談をするような間柄でもないのだけれど、そんなに仲良く見えるのだろうか。そう思って隣に立っている国広さんを伺うと、彼も同じように私の様子を伺っていた。

「ほら、そういうところ段々似てきてるぞ」

 好意を持ってる奴と一緒にいると仕草とか似てくるんだろ、とか爆弾発言を投げるだけ投げて兼定さんは去っていく。こ、好意……! 少し熱を持った顔を自覚しながらちらっと国広さんを伺うと、彼とばっちり視線があった。お互いすぐ視線を逸らしたものの照れる。そして困る。
 私の本丸にまだ刀剣は増えていない。私が実力不足であることと、学校とのダブルワークであることと、おじいちゃんの代理ということで顕現させる人数が増えたらもう一度引き継ぐ時に手間だろうという考えがあってのことだった。しかし、年のせいもあってかおじいちゃんの怪我の治りが遅いらしくて退院の目処がつかず、年も年なので引退の話がでているそうだ。おじいちゃんは引退を渋っているようで中々話は進んでいないが、政府の人から私が高校を卒業したら本格的に審神者業務を始めないかと声が掛かっている。就職困難であるこのご時世にスカウト、しかも正規のお給料は破格だったし、ちょっといいかなと考え始めている今日この頃である。そんなわけだから、これから一緒に仕事する相手と微妙な空気になっちゃうとまずいのだ。

「……か、兼定さんは冗談がお好きですね」
「ああ」
「ところで相談なんだけど、今のままで大丈夫? 任務とかきつくない?」
「正直きつい」
「ですよねー!」

 いくら説明がなかったといえども慣れてくると業務はわかってくる。戦闘に関しては部隊長がその場で的確な判断をしてくれるから私は敵の数と練度を考えて部隊を送るだけでいい。帰還するときも向こうから通信が来るのでそのタイミングで開いてやればいい。ただ、出陣の任務はそれでいいのだが、問題は資材だ。彼らが戦って怪我をすると手入れに資材が必要だし、刀装といって怪我をしないようにする武具を作らなくてはならない。これは本来ならばただの飾りなのだけれど、資材と審神者、そして彼ら刀剣男士の霊力が合わさると特殊な効果を発揮するものらしい。出陣すると資材確保の遠征にはいけない。遠征に行くと出陣の任務がこなせない。代理で正規の審神者より任務のノルマを減らしてもらえるとは言えども、クリアできないと本丸解体、なんてこともあるらしいのだ。世知辛い。

「ううん。おじいちゃんには悪いけど何人か増やしたほうがいいかなあ」
「そうしろ」
「おじいちゃんの集めた人を借りるとして、遠征部隊一つ……ってことは三人か四人は呼ばないとダメだよね」
「だな。これからキツくなってくるだろうし戦力的には大太刀が欲しい。あと脇差や槍がまだ一人もいないからそこから選んでもいい」
「やっぱり種類はバランスいいほうがいい?」
「地形を覚えたり、相手の癖を覚えたら種類は関係なくなるが、遠征の時に細かい条件がついている」
「なるほど〜」

 学校の宿題を片手間に国広さんと話し合った結果、脇差から兼定さんと仲が良い堀川国広さん、小夜くんの兄である宗三左文字さん、薬研くんの兄弟である粟田口に短刀から本人の希望を聞いて一名、大太刀から石切丸さん、槍から蜻蛉切さん、薙刀の岩融さんを呼ぶことにした。今いるメンバーと比較的仲のいい、もしくは馬が合いそうな相手を選んで、かつ扱いやすい相手を中心にしてもらった。一人で行動するのが好きな人とかお酒を飲んで酔うと扱いが難しくなる人もいるらしく、それはまだ私には早いとの国広さんの考えだった。

「六人か……結構多いね」
「岩融は小さい子が好きだから短刀が少ないと寂しいかも知れない。今剣も頼めるか?」
「七人!!」

 一人呼ぶのにも結構疲れるから、今日は呼ぶだけ呼んで任務は御預けになっちゃうかな? 彼らも馴染むのに時間が必要だろう。それに獅子王さんたちも毎日連戦だったから疲れているだろうし、お休みを上げてもいいかもしれない。刀の目利きなどできないので国広さんが名前を教えてくれるのを集める。そうして呼び出すことが決まった人たちを全員呼んだあと、おじいちゃんのことを説明して暫くの間私のもとでお手伝いしてくれるようにお願いした。皆さん最初はびっくりしたものの、おじいちゃんの孫だと分かるとすぐに優しく接してくれたのでおじいちゃんがどれだけ彼らといい関係を気づいていたのかがわかって嬉しくなった。

「じゃあ後のことはよろしくお願いします」
「ああ、わかった」
「それじゃ、また明日」
「砂羽」
「ん、どしたの?」
「……やっぱりここに泊まっていかないか。その、危ないだろう」

 いつになく真剣な顔で国広さんが言った。けれどもその時の私は、もう日も暮れているから言ったのだろうと軽く受け止めていたのだ。だから平気だよ、と言ってでも、とさらに言い募る彼を置き去りにして神域から出たのだ。

「砂羽っ!」

 悲痛な国広さんの声がする。私の名前をただただ叫ぶ。腹部を襲った強烈な痛みが何かを理解することもなく、私の視界は真っ黒に染まった。