相互サイトの蜜蜂のはこさんからif話を書いていただきました!素敵なお話をありがとうございます。





しとしとと雨が降り、庭先の紫陽花を濡らす。雨続きの本丸のじっとりした空気の中、布をすっぽり被った国広さんは大きなてるてる坊主のようだった。そんな格好をしているものの、隙間から覗く憂いを帯びた眼差しが雨を見つめている様子はただただ美しく、目を奪われる。勿論、写しという後ろめたさを感じている彼に告げる事はないけれど。

政府への報告書を纏めてしまえば、今日の任務は終わり。雨の日は出陣も遠征も休んで、内番のみをこなすこと。終わり次第のんびり過ごすと宣言してから、この本丸で雨の日は半休扱いだ。同田貫さん辺りから不満の声が上がるかと思いきや、手合わせをして普段とは違う戦闘に燃えているらしい。

そうして、みんなが思い思いに過ごしている中で、国広さんだけ働いているなんて申し訳ないから今日はもう良いとやんわり言ってみたけれど、案の定断られてしまった。

高校卒業と同時に祖父から受け継いだ本丸は、守りを重点に造られている。幾重にも張られた結界と、常に側にいる優秀な近侍、出陣、遠征に向かわない方が一時間置きに本丸の見回りを行う。些かやり過ぎではないかと思うが、結界の外で祖父は敵の襲撃を受け入院した事があるので彼等からしてみれば当然の措置なんだろう。
ぼんやりと、祖父が退院するまでの短い期間、審神者のアルバイトをしていた時の事を思い出す。幸いにも軽傷だった祖父は二週間で復帰したが、我ながらお金につられてとんでもない仕事をやっていたもんだ。

「終わったのか?」
「ああ、うん。ばっちり」

国広さんの声に記憶の底から浮上すれば、切れ長の蒼眼が此方を伺っていた。へらりと笑って報告書を見せれば、彼はふっと僅かに笑みを形どった。

「後は自由時間だねー。国広さんは何かしたい事ある?」
「俺は特に」
「そっかあ。どうしようかな、花札でもする?」

国広さんの返事を聞く前に、箪笥の引き出しをごそごそ漁って色鮮やかな花札を取り出す。少しテンションの上がっていた私は勢いよく振り返った瞬間袴を踏んづけて前のめりにつんのめった。

「きゃ」
「……っとに、砂羽は落ち着きがないな」
「ご、ごめんなさい……ありがとう」

倒れる身体を抱き留めてくれた国広さんの腕の中。しがみついたまま上を向けば、国広さんの整った顔が目と鼻の先にあった。みるみる顔が赤くなるのがわかったが、初心な国広さんも同じように真っ赤になっていたので、少しだけ、ほんの少しだけ悪戯心が芽生えて色付いた頬にキスしてみた。

「なっ……!!」
「えへへ、驚いた?」

鶴丸さんのように尋ねてみれば、更に頬に赤みが差し、私を抱き留める腕がぷるぷる震えだした。あれ、怒ったかな。と心配した矢先、片手が私の顎を持ち上げ唇を奪われた。しかも、それは触れるだけの可愛らしいものではなく、歯列をなぞり、舌を絡ませ吸われる生々しいものだったので二重の意味で驚いた。国広さんは初心じゃなかったの。
最後に音を立てて離れていった濡れた唇から目が離せなくて、暫くぼーっとしていれば、息を吐いた国広さんが「驚いたか」と普段より熱のこもった声音で尋ねてきた。こくこくと首を縦に振って、花札の散らばる畳の上にずるずると座り込む。驚きすぎて、腰が砕けてしまった。
私に合わせて座った国広さんは、目線を彷徨わせながら呟いた。

「……最初に煽ったのは、あんただろ」

私を抱き締める腕を離さない国広さんに色んな意味で脱力しつつ、同じように広い背中に腕を回してみた。雨の音が遠くなるくらい、私達の心音は五月蝿かった。



紫陽花の君/もしも運命が優しかったなら
透子さん、素敵な作品のifを書かせていただきありがとうございました!
青い紫陽花の花言葉:辛抱強い愛