いつものように門のところで私が出陣する時代へと念じて繋ぐ。そして彼らを見送る。小夜くんの「見送りはその辺にして、次は遠征部隊を送り出さないと」という声にびっくりして袴の裾を踏んづけて、門の向こう側へ転けてしまった。

「えっ」
「危ないっ!!」

 小夜くんが手を伸ばすけれどすんでのところで届かない。ぐにゃぐにゃっとした時空の歪みに飲み込まれてあっこれダメかもと覚悟を決めた瞬間落下が止まる。逞しい腕が私を抱きしめ、境界のこちら側に引き戻した。

「あ、りがとう……」
「何をしている」
「ごめんなさい……」

 引き戻した時に勢い余って地面に倒れ込んだのだが、国広さんが下敷きになってかばってくれたおかげで痛みはなかった。こう後ろから抱きしめられて足の間に座っている、ちょっと照れくさい体勢なのだけれど、違う意味で心臓がドキドキしていてときめく余裕もない。大丈夫ですか主さま! と声がして残っていた皆が集まってきた。

「あんたはそそっかしいんだから気をつけろ」
「うん、国広さん、怪我」
「問題ない。次は遠征だ。門を開いてくれ」

 私の面倒を短刀たちに任せ、国広さんは立ち上がる。その姿に急かされて私は急いで時代を繋いだ。門の向こうに皆の姿が消えると、前田くんがさっと門を閉めてくれた。うう、これ絶対気を遣われている……。

「主君、お怪我はありませんか?」
「大丈夫、ありがとう」
「お召し物が汚れてしまいました。着替えをお持ち致しますのでお部屋でお待ちください」
「部屋までは僕が連れて行くよ」
「小夜殿、よろしくお願い致します」

 幼い外見に反した完璧な敬語と心遣い、スマートな立ち振る舞い。これで粟田口の末っ子だというのだからあの一門は恐ろしい。長男(推定)である一期一振さんも王子様然としているし流派によって個性決まってるのかな、と思った。
 小夜くんに自室まで付き添われ、そのまま待機。これからの予定をどうするか話している。見送りの前に鍛刀した刀がそろそろ出来上がっているだろうから様子を見に行って、残りの二本分も鍛刀する、とのこと。連結は勝手に話し合ってするらしいので心配はいらないと。本当にそれだけでいいのかと言ってしまいたくなるほど私に与えられた課題は少なかった。成人済の外見の方なら娘を可愛がっている感覚を理解できないこともないのだが、幼い外見の方にまで甘やかされるとこう、なんというか申し訳ない。新しい着替えを持ってきた前田くんに着付けまでやって貰ってしまいどうにもやりきれない気持ちになった。

「これ……人が出てこないんだけど」
「もう既にいる刀は顕現しないよ」
「そっか……」
「でも、ちゃんと鍛刀できてる」

 励まされている……。最初は暗くてとっつきにくいなって思った小夜くんだったけど、おじいちゃんが特に可愛がっていたのがわかるくらい、慣れると可愛いのだ。目がつっているから怖く見えるし、感情を抑えた喋り方をしているから子供らしくないように見えるけれど、たぶん言葉と感情に慣れていないだけで、きっと豊かな心を持っているのだ。私を一番支えてくれたのは国広さんだと思うけれど、それと同じくらい小夜くんも私を支えてくれた。疲れたなって思ったタイミングでお茶とお団子を持ってきてくれたり、何も言わないけど傍にいてくれたり。

「励ましてくれてありがと、小夜くん」
「……」
「じゃ、残りの二本鍛刀して任務終わらせなきゃね。レシピはどれにしようかな」
「三条の二人を狙うなら、これ」
「じゃあそうする!」

 資材を適切に分配して妖精さんに渡して、近侍と一緒に霊力を込める。そうして表示された時間を見ると、一時間半と、

「え」
「小夜くんどうしたの」
「見て」
「よ、よじかん……」

 吃驚したとかそういうレベルじゃなかった。私と小夜くんの叫び声が本丸に響き渡った。