私の組んだシフトで遠征出陣内番、それと料理当番も上手く回ったらしい。特に誰かに偏った負担もなく回せるとのことで、体調不良等の変更も受け付けているので問題はない。ただ、今の本丸には顕現している刀以外の予備はなく、連結や……あまりしたくはないけれど刀解の任務がこなせないのだ。本丸に一振り目の刀がいて、その刀が成長の上限まで達していない限りは二振り目の刀は顕現することができないらしいのだが、なんというか少し罪悪感が生まれるのだ。当の本人たちは「強くなれるんならそれでいいじゃん。資材が増えるならそれでいいじゃん」なんて気にしていないのだけれど。刀は稀に戦場で拾って来ることもあるらしいのだけど、今いない刀も鍛刀でつくることはできるみたいなので、日課の任務になれることもあって初めての鍛刀を行うことにした。近侍はもちろん国広さんだ。

「……おい大丈夫か」
「だだだだだだ大丈夫です」
「全然大丈夫そうには見えないが」

 初めてする審神者っぽいことに精神がやられちゃっているだけです! 大丈夫です!
 本丸に既に四十近い刀剣がいるにも関わらず、私は初鍛刀なのだ。他の審神者は仲間を増やすために当然何度も鍛刀を行っている。ということは、もし私が鍛刀できなかったらここの本丸の主を辞めさせられてしまったり……? とか考えてしまうとどうも緊張していけない。そんな私の内面の心情を知ってか知らずか、国広さんは「心配するな」と言って頭を撫でる。

「あんたの実力、俺はちゃんと知っている。だから心配することは何もない」
「え……」

 国広さんがデレた……だと……!?
 発言の内容、優しげな微笑みもさることながら、手。私の頭を撫でている手。意識してしまうとどうも照れくさくて、恥ずかしくて、意識しないように頭の中で素数を数え始めても効果はなくて頬がだんだん熱を持ってきているのがわかった。どうしよう、今これ私絶対に真っ赤だ。突然黙り込んでしまった私の様子を見て、何かを察してしまった国広さんの手が止まる。止まっても離すタイミングを逃してしまったせいでまだ触れている。ぎこちない雰囲気で固まっているとヒュウ、と口笛が聞こえた。

「おっ、なんだお前たちそういう関係か!? これは驚きだな! 皆に知らせてやらないとな!」

 声の主は鶴丸さんだった。ニヤニヤいやらしい笑みを浮かべて走り去る彼を真っ赤になった国広さんが追いかける。国広さんの方が早いからきっと鶴丸さんは騒ぎ出す前に捕まるだろう。すぐに戻ってくるから、それまでにこの顔が赤いのをなんとかしなきゃ。私、国広さんといると、どうしてこんなにすぐ恥ずかしくなっちゃうんだろう……?



 初鍛刀を経て――意気込んでやったものの、結局ダブってしまったので顕現はできなかったが――午後の出陣に国広さんが向かうことになった。なんだかんだ彼が私の近侍を離れたのは初めてなのである。代理の近侍は小夜くん。最近顕現させた方ではなくて初期からの馴染みのある子なのでちょっと安心。国広さんもずっと一緒にいたら練度が上がらないので定期的に出陣するべきだし、いつまでも同じ人に頼ってばかりはいけない。これからずっと一緒に暮らすのだから全員と親しくなるべきだし、これがチャンスだとはわかっている。わかっているけど、最初は……馴染みのある人でもいいよね?
 いつものように門のところで私が出陣する時代へと念じて繋ぐ。そして彼らを見送る。いつも私の横に立っていてくれた国広さんの背中を見送るのが寂しくてじっと見つめていたせいだろうか。小夜くんの「そろそろ閉めないと敵が入ってきちゃうよ」という声にびっくりして袴の裾を踏んづけて、門の向こう側へ転けてしまった。

「えっ」
「危ないっ!!」

 小夜くんが手を伸ばすけれどすんでのところで届かない。ぐにゃぐにゃっとした時空の歪みに飲み込まれてどんどん落ちていって気付いたら私は過去の戦場に飛んでいた。

「え……どうして主がここに?」

 加州さん、獅子王くん、鯰尾くん、骨喰くん、薬研くん、そして国広さんの六人が困惑したように私を見つめていた。この時代は織豊(しょくほう)時代、本能寺の変のその最中。まさか自分が戦場に来ることになろうとは。

「足滑らせて……門乗り越えちゃった……」

 唯一の救いは信頼する仲間たちと同じ場所に着地できたことだな。ため息と、怒鳴り声と、重いげんこつのせいで目に浮かんだ涙を堪えて思った。そんなに怒らなくてもいいじゃん、ねえ?