「こてつじゅうばい」

 政府から来た手紙を読んだ主が呟いた。なぜ政府からの手紙かと分かったのかというと、審神者に手紙を送ることが出来るのは政府か審神者の身内、認可を通している親しい友人、もしくは恋人だけだからである。最初は手紙が届くたびに「恋文か?」なんてからかっていたが、やっているげえむの画面から一切目を離さず「いると思う?」と返してきた主の姿を見て燭台切にそっと諭されたのをきっかけに尋ねることはやめた。それはさておき耳慣れない言葉だったので意味を理解するのに時間がかかったが――というかまだ理解は出来ていないが、普段からは想像できないほど俊敏に動き始めた主の姿を見て厚樫山の悲劇の再臨を予感した。嫌な予感ほどよく当たるものなのは、人の姿をとってからこの本丸で嫌というほど学んだ。

「それでは今から検非違使狩りを行います!!!!!」

 結果として俺の予感は当たったのである。練度が近いやつがいる組は声にならない悲鳴を上げた。主が呟いた「こてつじゅうばい」が、きちんと漢字変換されて俺の脳裏に浮かんだ。「虎徹十倍」だ。

「いきなりなんでだ! 今まで興味なかった癖に!!」

 悲鳴に近い叫びをあげたのは山姥切だった。そう言えば次郎や燭台切、同田貫、山伏、鶯丸、江雪らと練度が近かったな。太刀大太刀がいたら火力申し分ないし投石要員として駆り出されるのだろうな、と彼の未来を予想したら泣きたくなった。

「いや〜今までは虎徹の泥率小数点以下だったじゃん? それでレアでもないのにその入手率の低さはどうよって思ってたことは認めるよ。でもさっき政府から来て泥率が十倍になったらしいんだよね、つまり一桁」
「一桁になったからってなんだ」
「一桁は射程圏内です」
「意味がわからない」

 俺もわからない。
 二桁ならわかる。でも一桁はわからない。

「一桁は石溶かしながら脳死周回したら落ちます!!!!!」
「俺は脳死周回とやらをしてもどろっぷしなかったぞ」
「おじいちゃんは黙って。士気が下がるから黙って」

 俺が強くたくましく、少し心を病みながらもまあ健やかに育つ原因となった三日月宗近は結局落なかった。三千は出陣したけど落なかった。代わりに貯めに貯め込んだ資材を一万ほど無心に使って、主のあまりの目の死に方に恐怖を覚えた蛍丸が逃走を図ろうと決意した時に彼はやってきたのである。今までの苦労はなんだったのか、初めて虚無感を覚えた俺であった。

「それに大丈夫! ここは備前! 検非違使はいる!!」
「あれだけ黒俣に行っても狐はおらぬがな」
「だからおじいちゃんは黙って」

 三日月が喋るたびに士気がだだ下がりである。彼を入手したのは本当に良かったのか、少し悩んだ瞬間であった。