我が本丸の山姥切国広は、他の本丸の山姥切と比べて少しばかりくら、……いや、大人しいらしい。どこの本丸でも基本的に彼は物静かで、人の輪の中に積極的に飛び込んでいくわけではないが、それでも戦の時は(普段と比べると)声も大きくなるし口数も多くなるし交流も増えるらしい。兄弟である山伏や堀川といるときは自然体でいることも多いのだと、演練の時にほかの本丸の俺から聞いた。
意外に思われるのかもしれないのだが、演練のあとに対戦した部隊同士での会話が盛り上がることは少なくない。特にもう一人の自分がいればなおさらである。これは個人差があるとは思うけれど。意識を持ってから育った環境が違うだけで性格に差異が出てくるし、自分であるのにまったく別の個体であるものを見るのは面白いのだ。大まかなシステムは同じだけど、それを統べる審神者の性質によって本丸の決まりごとが異なるのも話が盛り上がる原因の一つである。この間対戦した相手にいた今剣に聞いた「こおりおに」なるものを我が本丸に導入したら短刀たちだけでなく太刀も大喜びだった。それはさておき。


「お前たちのとこの山姥切は随分と静かなんだな」
「そうか? しかしあれは元々そういう質だろう。あまり人と関わる方ではない」
「いや、それでも戦のことになると多少は饒舌になるだろう。活躍したことを褒められたら一応会話はしていたしな」
「そうなのか?」


 確かに今日の対戦で山姥切は誉をとっていた。開幕早々の投石には鬼気迫るものが有り、相手方の短刀(不幸なことに中でも特に気の弱い五虎退がいた)に肉体的だけでなく精神的な傷を負わせってしまったほどである。それほどの活躍であるのに、彼は褒められてもはにかむどころかさらに落ち込んで、隅の方で蹲ってしまっていた。
 そう言えば我が本丸の山姥切は兄である山伏といてもあまり言葉を話さない。初期刀という立場故か近侍に命じられることが多いので大半を審神者と一緒に過ごしているのがその原因だろうか。中には性格の悪い主がいて刀をいじめるという例もあったみたいだが、うちの主に関しては絶対なさそうだなあ、と苦笑した。
主はげえむという娯楽が好きで、翌日が休日だと夜を徹してでもそれに耽っているという。朝餉の時間になかなかやってこない主を呼びに行った燭台切が目にしたものは目の下に物凄い隈を作り、眠気故か眼球を酷使したせいか血走った目をしているおよそ人とは思えないものだったらしい。余談だが、この出来事がきっかけで薬研、燭台切、長谷部を筆頭とする堅物もしくは世話焼きな面々が休日の前日には主の近侍をつとめるようになった。このような人であるからストレス発散はげえむとやらでするだろう。あと話していて悪人のようには思えなかった。厚樫山の無体は強いてきたけれど!!


「山姥切、少し聞きたいんだがいいか」
「……なんだ」


 一応返事は返してきたものの視線すらこっちに向けないなんてさすがの俺も驚いたぜ!
 こないだ会ったもう一人の俺が我が家の山姥切の心配をしたのも仕方ないなと思ってしまうほど、彼は愛想がない。


「お前は主の近侍をよく勤めているだろう。どんな仕事をしているんだ」
「……特に」
「教えてくれてもいいじゃないか!」


 取り付く島もないとはまさにこのこと。俺は世話焼きや堅物の面子には入っていないし、「一緒になって遊びそうだから」という理由で近侍を与えられたことがないので気になっていたのもある。いつも近侍をしているくせに!と憤り混じりの視線を投げたら、めんどくさそうなため息が帰ってきた。


「本当に何もしていない」
「そんなことはないだろう? 報告の義務というやつがあって、手間だがそれをしないと資材や金を貰えないと聞いた。近侍はそれの補佐をするんだろう?」
「……主は確かにそれをしているが、未来の機械で報告の文を作るのが尋常でない速さで、俺は本当に何もしていないんだ……主よりも価値がないんだ俺は」


 ああ、確かにあれより自分が劣っているかもと気づいたら精神的に来るものがあるよなあ、と。普段の主を思い返して納得している自分がいた。