仲良しコンビで有名な、MEZZO″の仲が実は良くないことを聞いたのは、他でもないタマちゃんの口からだった。アイドルが一般人にそんなことを軽率に言ってもいいのか悩ましいところではあるけれど、それがタマちゃんという男の子だった。「昨日、そーちゃんが」という言葉でタマちゃんは「そーちゃん」の話を私にしてくれる。今をときめくアイドルに内緒の話をされて、普通の女の子なら舞い上がってその情報をリークしてしまうだろう。そうして問題になって、タマちゃんと気まずい関係になる。普通の、常識のある人ならその話を聞いてタマちゃんに「プライベートのことを喋ったらいけないよ」と注意してしまうだろう。一般的に考えるとそれは正しい。けれど、殊に、タマちゃんに限っては不正解なのだ。タマちゃんはアイドルとかそんなの関係なしに、私だから――つまり、話している相手のことを信頼しているから話をしてくれているのだ。だから、その気持ちを裏切るような回答は絶対にしてはいけない。

「そうなんだ」

 タマちゃんは本気で「そーちゃん」のことが嫌いなわけじゃない。根は素直で優しい子だから、同じグループの仲間である以上、きっと仲良くしたいと思っている。でもきっとなにかしらのすれ違いがあって。もしくは単に馬が合わないだけで、こんな状態になっているのだ。だから正しい行動は、彼の話をきちんと聞いてあげること。話の途中で間違っている行動をたくさんしているだろうけれど、否定せずに最後まで聞いてあげること。この二つ。最後まで話してタマちゃんが満足したところでアドバイスをあげる。

「そのそーちゃんと、いつかは仲良くなれるといいね」
「無理」
「なんで?」
「そーちゃん、俺のこと嫌いだもん」
「本人の口から直接聞いたの?」
「ううん」
「じゃあ大丈夫だよ。仲良くなれるよ」
「ほんと? さっきの話聞いてても名前、そう思う?」
「思うよ。だってタマちゃんはいい子だもん。そのタマちゃんと同じグループの人もきっといい人だし、だから皆仲良くなれるよ」
「そっかな?」
「うんうん。だからそーちゃんと一番うまくやってるな〜って人にお話を聞いてみたらどうかな?」
「うん」

 身長が高くて、凄く凄くかっこいいので「抱かれたい男ランキング」にも入ってしまうタマちゃんだけど、内面はまだまだ子ども。だから誰よりも純粋。言い方さえ間違えなければ注意も素直に聞くし、出来る限り、直そうと勤めてくれる。努力に気付いて褒めてあげれば嬉しそうに笑うし、ますます成長していくのだ。タマちゃんとは、そんな素敵な男の子なのだ。

「タマちゃんが私にこの話をしてくれたのは嬉しいんだけどね、MEZZO″って仲良しってイメージじゃない?」
「仲良くないのにな」
「ね。でも、マネージャーさんに、イメージ崩す行動はしちゃダメとか言われてない」
「ような」
「じゃあ気を付けよう。マネージャーさんはタマちゃんのためにいろいろ考えてくれるんでしょう?」

 うん、と頷いてタマちゃんはマネージャーさんの話をしてくれる。メンバーの話をしてくれる。情報漏えいじゃないのかなと思うのだけど、私が一番大事なのはタマちゃんだからタマちゃんが悲しんだりふてたりする顔はできるだけ見たくない。それにこれは私が黙っていればいいことだ。そうすればみんなが幸せになるのだ。

「名前、聞いてんの?」
「うん、聞いてるよ」

 窓を背にして座るタマちゃんの後から差す太陽の光が眩しくて目を細めた。後光が差しているみたい、なんて思ったけど口には出さない。言わなくてもわかっていることだ。アイドルになる前から眩しい男の子だった。そんな男の子が、私と仲良くしてくれるなんて夢みたい。

「……本当に聞いてんの?」

 確かめるように触れてきたタマちゃんの指が夢じゃないことを証明してくれて、なんだか私は泣きそうになった。