素直なことを言うと私は大変焦っていた。私の住む町へ女の子らしくておしゃれで可愛くてバトルの強い女の子が引っ越してきたからだ。そしてその女の子に私の好きな人であるカルムが「お隣さんお隣さん」と彼女にぞっこんだからである。

彼女が引っ越してきた初日からみんなで囲んだ。洗練されたファッションと話し方にみんな夢中になってこぞって友達になりたいと夢を見た。実際私も、お人形みたいに可愛い彼女にたいしてそう思っていたのだ。なんだかんだで打ち解けた私たちはみんなで一緒に旅に出ることにした。このときの私はすっかり旅行気分で、カルムといろんな街へ行けることに気を取られていて、カルムの視線の先にいる人物のことにまったく気が付かなかったのである。ハクダンの森で「これ使いなよ」ってモンスターボールを渡されたときになんと紳士的でかっこいいのだろう、さすがカルムだと感心していたものだ。
私とカルムの付き合いは生まれた時にさかのぼる。お互いの好きな食べ物や苦手なもの、小さいころの情けない話もなんだって知っている。アサメは小さなまちだから子供の人数も限られていて、いつも遊ぶメンバーはトロバ、ティエルノ、カルム、サナ、そして私と決まっていた。自分でいうのもなんだが、その中でも私とカルムはいい雰囲気で、もう付き合っているも同然で、私はこの田舎町の中では可愛い方で、だからこそ油断していたのかもしれない。世の中に、テレビの中もモデルや女優以外にこんなに可愛い女の子がいるなんて考えてもなかった。野生の女の子がこんなに可愛いなんて、本当におかしい。親がエリートトレーナーのカルムは両親の影響もあって大変ポケモンに詳しく、誰よりも強く興味を示していた。その中でももっとも気にかけていたのがポケモンバトルで、だから親が有名なサイホーンレーサーのセレナちゃんのことを気にかけるのは当たり前のことなのに。


「カルム、カルム、確かここってピカチュウがでるんだよね。私ピカチュウ欲しいな!」
「いいよ。オレが捕まえてあげる」
「ありがと〜!」


なんて、図鑑のために出会ったポケモンを片っ端から捕獲するセレナちゃんの横で馬鹿な私はカルムに強請ってピカチュウを捕まえてもらったりしていた。本当はこんなことするべきじゃなかったのだ。彼の目に映りたいのなら、非凡なトレーナーであることをアピールするべきだったのだと気付いたのはバッチを四つほどゲットしたときであった。
すいすいバッチをゲットしていくカルムとセレナちゃんに対して、私はだんだんとジムリーダーを倒せなくなっていた。「お隣さん」と距離をとった、けれども意識した呼び方をしていたカルムが段々とセレナちゃんのことを名前で呼びだしたのもこのころだったように思う。メガリングを渡すひとを決めるときにだって私は名前すら上がらなかった。貰ったとしても使いこなせる自信はなかったが、カルムとセレナちゃんが二人っきりでバトルをしているとなんだか悲しい気持ちになった。結局カルムが負けて、メガリングはセレナちゃんのものになった。貰ってすぐメガ進化を使いこなしたセレナちゃんは普通の女の子じゃなかった。すごい女の子であった。私なんか敵わないくらいに。

カルム落ち込んでいないかな、とみんなが旅立ったあとのシャラシティを散策してまわる。まちの隅っこでカルムは小さくなってぼんやりと考え事をしていた。


「カルム」
「ああ、なまえ」
「残念だったね」
「オレの実力不足さ、仕方ないよ。それにほとんどのトレーナーはメガ進化なんて使えないし、ジムリーダーや四天王はそれでも強い。持ってないことが言い訳にはならないさ」


自分の悔しさを紛らわすために言っているのだろうか、それとも本心なのか逆光で表情は見えなかったが、なんとなく本心なのだろうと思った。幼馴染の勘ってやつだ。ずっと隣で見てきた女の勘だ。男の子ってすぐ成長しちゃう。置いてかないで、そう縋ることは簡単だけれど、それでカルムの成長を妨げることは絶対にしたくない。バトルに女も男も関係ないのだから私が強くなればいいだけだ。


「カルムは、凄いなあ」
「別にオレなんかたいしたことないよ。バトルセンスはお隣さんのが上だし」
「そうじゃなくて、もっと内面的なもの。私、ぜんぜんカルムに追いつけないよ。頑張って追いかけてるつもりなのに」
「なまえもよくやってるよ」
「ありがとうね、でも全然ダメなんだ……バッチも勝ち取れなくなってきたし」


先に先に進んでいく二人に追いつくことはできなくても最低限のレベルまでは近付きたい。セレナみたいにジムバッチをゲットすることができたら、カルムの隣にいても許されるんじゃないかと考えた私は、ある提案を思いついた。


「バッチ、全部ゲットしたらカルムに告白しよう」

「それ、オレに言っちゃう?」
「……あ。なら、予約ってことで」
「ドジだなぁ。そういうところが好きなんだけど」
「え?」
「なんでもないよ、なまえ。楽しみにしてるからね」