誠二が隣にいることが当たり前だったのだと、彼が武蔵森へ入学してから知った。小さい頃から毎日ずっと一緒にいた相方が同じ学校にいないだけでこんなに寂しいものだとは思わなかった。私には女の子の友達も、男の子の友達だっているけれどやっぱりちょっと違うのだ。休み時間に馬鹿なことで騒いだり、帰り道に寄り道したり、全部をできるのは誠二だけなのだ。しかも相手は寮に入っているから、休日に遊ぶなんてことも出来やしない。ああもうつまらない。ふう、と溜め息を吐くと新しくできた友人がこちらを見て笑った。

「ようようなまえちゃん元気ないねえ。恋煩いかい?」
「まっさかあ。あるわけないじゃん!」
「あーじゃあ武蔵森に入ったっていう例の幼なじみくん? 好きだねえ」

 武蔵森は文武両道両道の看板を背負うくらい優秀なので、武蔵森っていうのはステータスなのだ。私の学校にも、武蔵森に落ちて仕方なしに来たと云う人がいる。そんな学校にお世辞にも頭がいいと言えない誠二は、スポーツ推薦で入ったのだった。


「誠二くん、サッカー部のレギュラーになったんですって」
「ええ」
「まだ一年なのに凄いわよねえ」

 誠二は昔から運動神経が良かったけれどまさかそこまでとは。サッカーバカでサッカーばかりしていたから分かるけれど……つくづく、住んでいる世界が違うのだなと思い知らされた。ちょっと前までは同じ世界に住んでいたのに私だけ置いてきぼりでやるせない。あんまりにも寂しいものだから、せめて高校ではと思って今から勉強を始めていたのだが、果たしていつまで続くことやら。誠二、ちっとも連絡くれないんだもんな。シャーペンを放り投げて溜め息を吐く。テスト前でもないのにやってらんないわ。

「なまえ、久しぶり!」
「え?」

 耳に馴染んだ声が聞こえるとともに頭にものすごい圧力がかかる。犯人はわかってる。あいつだ。

「何すんのよバカ誠二!」
「イェーイスーパーヒーロー誠二くんでっす! ぴーすぴーす」
「なんか武蔵森行ってからバカさが増したね……」

 名門校の制服も誠二なんかに着られたら泣くわ。誠二全然変わってないんだもんな。

「なんで今さら帰って来たのよ」
「なまえちゃんが俺に会えなくて寂しがってると聞いて」
「死ね」
「ひどい!」

 よよと泣き真似をする誠二を殴る。上手いこと交わされて腹がたったけど、懐かしい距離感に頬が緩みそうになったことも確かだった。

「そうだ、なまえ、聞いて聞いて」
「うん?」
「俺さ、やっと一軍にあがったんだよ。一年で武蔵森の一軍だぜ。すげーだろ!」
「おっ、おめでと誠二!」

 それがどれくらい凄いのかサッカーに詳しくない私はわからないのだけど、普段そこまで言ってきたりしない誠二が言うのだから、それほどのことなんだろう。

「俺さーもっと頑張ってレギュラーになるから、そしたら応援に来てくれよな!」
「えっ、いいの?」
「当たり前だろーなまえは俺の特別なんだからさ」

 誠二の言葉にまたもや頬が緩んだ。嬉しいことを言ってくれる。もしそうなったら、差し入れ、奮発してやろうじゃないか。