色は匂へと | ナノ


(菜の花色/#ffec47)
(春にわらう菜の花と)


「あ、ほらみーくん! みーくん!」
「なーにー? ……あれ、あちらは菜の花?」
「そうだよ、だって菜の花の色してるもん!」
 冬は好きだけど寒い、が口癖みたいになってきていたわたしは、まだひんやりというよりざっくり肌を冷やす風に揺れる菜の花のところまで、ぱたぱた走った。みーくんも秋雨のようなやれやれ、と言った風ではなく、あくまでも自然についてきてくれる。

「ほら、菜の花」
「……作り物かい」
 そもそも店ん中に生花の菜の花がある訳もない、と溜め息をつくみーくんと、菜の花の“色”をしたそれを指差す、わたしと。
「でもほら、ほら、可愛いじゃない、これ。菜の花のモチーフ描いてあるしさ」
「菜の花のモチーフの文具なんだから、当たり前。しっかし色々あるねぇ、クリアファイルに、シャーペンに、ノートに、ルーズリーフに……、へぇ」
 和風の七色が並ぶ中で、「みーくんみーくん」と彼女を呼ぶ。いつもみんなに疑問がられる、わたしが大好きな呼び名。みーくんがいたから秋雨と出逢うまでのわたしはいて、みーくんはわたしの大好きな人だ。ずぅっと、ずぅっと、すごく。
「なに、あーちゃん」
「わたしとみーくんと秋雨と倉乃、4人でお揃いしない?」
「お揃い、」「うん!」
 ほらほら、っとみーくんの手を引くわたしは、楽しさと幸せっぷりで、顔面不細工の癖にものすごく笑顔。だって幸せだから、笑うんだよ。
 悲しくても、笑うんだよ。それがわたしの生き方だから。
 でも悲しかったら泣ける今の友達、好きな人達に、同じようなものを持っていてもらいたい。

「みーくん、菫色とかは?」
「いや、色はいいんだけどさ」
「ん、」
「あーちゃんと私だけ、形もお揃いとか、駄目かな」
 神様もびっくりな、幸せ過ぎて寿命が3年縮みかねない申し出に、わたしは目を真ん丸くした。みーくんから、みーくんからお揃いの、お誘いが! 今までもお誘いの物をくれたことはあったけど、本当にふたりで買い物の最中、みーくんからお誘いが! な、なんと幸せなんだこれはもしや夢「なにあーちゃん頬つねって」「……あうぅ」
 みーくんは静かな、でもちょっと期待するような目で、もう一度訊いてくる。駄目? と言われたことに、わたしはぶんぶん首を振って、

「……ううん、嬉しい」


 それから、一番最初に見つけた、菜の花色のクリアファイルはみーくんが買って、わたしは撫子色のクリアファイルを買った。シンプルな空色と菫色のシャーペンとノートを秋雨と倉乃に、わたし達はシャーペンもノートもルーズリーフもみーんなお揃いに、菜の花色と(必ずどっちかがあーちゃんの見つけた菜の花で、とか。バイみーくん)空色とか、菫とか、撫子にした。ちなみにルーズリーフはわたしが空色、ノートはわたしが菜の花、シャーペンはわたしが菜の花だ。菜の花率五分五分、よし完璧。


「あ、ねぇあーちゃん」
「う?」
「この菜の花色のマスコット、可愛くないかな」
「あ、……ほんとだ」
 大きな買い物袋を提げたみーくんが指差したのは、菜の花色の服を着て、菜の花を抱えた、うさぎさんと猫さんのマスコットで。
 可愛い、可愛いね、と言い争うように呟きあうわたし達は、揃って菜の花色をしたうさぎさんを見つめた。笑いあった。
「買う?」
「買いたいね」
「ふたりで買おうか」
「これだけ色も、お揃いだね」


 ふたりで、笑いあう。
 もうすぐ春が来ます。
 うさぎが抱えた菜の花が咲く季節が、やって来ます。




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