色は匂へと | ナノ


(蜜柑色/#f08300)
(蜜柑色のアイのはなし)


「なぜ、なぜ!」
「いや、何がですか」
「何故に私は、ここ最近あーちゃんより井上とよくいるの!」
 声を大にして叫んだ綿貫碧葉に、一瞬学食にいた人間の視線が集中した。綿貫先輩、それは僕だって言いたいです。いや僕は葵ともよくいるんだけど、秋雨同伴だし。あのバカップル自重自重。

「私は井上よりあーちゃんがいい」
「葵も言ってましたよ、僕といるよりみーくんがいいみーくんがいい、って」
 綿貫碧葉。わたぬきあおば。
 どこにもマ行なんてないのに、葵は綿貫先輩をみーくんと呼ぶ。古くから、秋雨より古くからの知り合いらしく、そりゃあ僕にはわからない様々もあるのだろうが。……しかし、何故みーくん。
 綿貫先輩はぶーたれた様子で、葵がみーくんにと作ってきた、蜜柑ジャムが載っけられたクッキーを摘まんでいる。蜜柑色のそれから手作りなそれは、出来れば僕も食べてみたいものだが、綿貫先輩がまさか、僕に葵の手作り菓子をくれる訳もないだろう。葵、と彼女を呼んでいるそれだけで、目の敵のようにされているし。

「そういえば、葵から綿貫先輩に」
「ん?」
「蜜柑ジュース、なんてものを作ったらしくて。これに」
 鞄から、朝葵に渡された水筒を出すと、綿貫先輩はぱっと目を輝かせた。流石、心理科最大の仲よし先後輩コンビなだけあって、綿貫先輩も葵も、お互いを好きすぎて病気だ、いっそ百合。嘘ですすいません。
 その葵は、今日は秋雨と本屋に行っている。ちなみにこれは、先輩には伝えていない。何故なら本屋となると葵・綿貫先輩コンビなのが普通なものだから、たまに秋雨が同伴になると、綿貫先輩はひたすら拗ねる。っていうか機嫌悪くなる。怖いんだよな、あれ。前にやってしまったけど。

「あーちゃんから私に!」
「はい」
「私だけに?」
「はい」何の確認だ。
 よっしゃ、と小さく呟く、さっきから謎の行動ばかりな綿貫先輩をよそに、自分も目の前の冷凍蜜柑を剥く。クッキーにある蜜柑ジャムよりかちゃんとオレンジ、橙的な蜜柑色をしている。まだ寒いこの時期、あたたかい学食で冷凍蜜柑を食べる喜びというのがある。蜜柑は秋雨も唯一食べられる果物だし、葵も好き好んでよく使うし。

「蜜柑尽くしですな、あーちゃんからの」
「愛の深さが伝わってきますね」秋雨に対してのあれ、よりは重くないが、しかしながらこれだって十分に重い気がする。

「ん、まぁあーちゃんだしねぇ」
「……そうですね」
 訳のわからない納得ではあったが、確かに葵は、元来が重い人間だしなぁ。依存性強いし。綿貫先輩も、昔は大変だったのだとか、しみじみ語っていた。大まかに。
「みっかん、みっかん」
「そんなに好きですか」
「いや今日会えてないあーちゃんからの差し入れだし」
「……なるほど」

 こぽこぽと、蜜柑色をした手作りらしい雰囲気の液体が、水筒のカップに注がれていく。あぁ少し羨ましいな、とか、そんなことは秘密にしておかないと、綿貫先輩怖いから。なんか、逆らえないから。
 秋雨にしろ僕にしろ先輩にしろ、葵にそれぞれ違う形や重量の愛を抱いてますよね、っていう。だから自分にだけ、とか、いつもは淡白な綿貫先輩が、確認したがるんだろう。アイが愛を叫ぶ。詩的にしたらいいもんでもないかな、嘘ですが。




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