色は匂へと | ナノ
(撫子色/#eebbcb)
(撫子のおそろい)
秋雨が手に取ったのは、淡いピンク色をした可愛らしい花のネックレスだった。花びらの中に、撫子色をした石が埋め込まれている。
「似合うんじゃないかな、これ」
「そうかな」
「撫子がモチーフみたいだから、葵と名前に差違はあるけど」
「、……」
黙り込むわたしに、秋雨は柔らかに笑って「あぁ、恥ずかしい?」なんて訊いてくる。意地悪なやつだ、わたしが好きなひとに名前を呼ばれるのが苦手なの、知ってるくせに。
倉乃がいないと秋雨は好き勝手なのだ、本当に。呼びたいように呼ぶし、買いたいように買い与えてくるし、自重も何もあったもんじゃないのだ。そんな彼に振り回されているのに、わたしはそんな彼が好きなのだ。まるで、あほみたいに。ばかみたいに。
「……撫子って、わたしには上品過ぎないかな」
「そんなこともないよ。葵、」「三橋」「……三橋、普段から真面目でかっちりしてるから、こんなのワンポイントにいいと思うよ」
そうかなぁ、と唸るわたし。
そうだよ、と笑う秋雨。
なら、と財布の中身を確認しようと、いつも大量に様々が詰まっている鞄を漁るわたしに、「いいよ俺が買うから」と、さっさとそれを手に取ってしまう秋雨に、わたしは反論代わりに「じゃあ、」と口を開いた。
「じゃあ、わたしから秋雨にこのリング贈る」
指差したのは、ネックレスと同じようなデザインの、同じ色をしたピンキーリングで、秋雨は「俺男だよ」とか、どこか不満そうにする。
「長いチェーンも買って、お揃いにしようよ」
「なんで三橋だけじゃ駄目なのさ」
「いつも秋雨に買われてばっかりだから」
素直に理由を述べても、秋雨は「俺が好きでやってるし」などと引き下がらない。この頑固者め! と叫びたくなったのは、秘密。頑固と罵っても、秋雨は「相手が葵だからだよ」と馬鹿げたことしか言わないのだから。あんな恥ずかしいこと、もうこりごりだ。
とにかく買う、と告げ、ピンキーリングと一番長いチェーンを手にして、さっさとレジに向かう。「ちょっと、葵、」「はいはい誰かなそれ」言うまでもない、わたしだが。「……三橋頑固だよ」あんたに言われたくはない。
秋雨も結局あのネックレスを買って、店を出てからふたり、互いに買った物を交換した。秋雨は渋々チェーンにリングを通してはいたけど、秋雨も秋雨で大体なんとなくかちっとした服装だから、リングは上手く服のしたに隠れた。
「お揃い、お揃い」
「そんなにお揃いがよかったの?」
「だってなんか、恋人っぽくて嬉しいじゃない」
「……恋人じゃないのかな」
呟いて、秋雨はわたしの手の中でちらちら光る撫子色に触れた。「付けてあげるよ」「え、」「ほら、こっち」肩を引かれて、秋雨との距離が縮まる。するりと、首を秋雨の手が掠めた。
ぱち、という音に胸元の撫子から秋雨に視線を移したら、秋雨は淡くはにかむように、笑って。
「ほら、似合う」
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