色は匂へと | ナノ


(藤紫/#a59aca)
(藤紫のお母さん)


「紫って、見ると母さん思い出す」
 大学からの帰り道、狂ったように咲いていた藤を見て、三橋が呟いた。俺はなんで、とだけ答える。
「昔、母さんが好きだった。こういう紫。風水かなんかで、いいって言われてたからかな」
「……ふぅん」
「そうなると、わたしは黒いイメージのお母さんかな」
「青じゃないの、葵だし」
「だじゃれかい」
 ぺしん、と額をはたかれて、少し笑う。三橋も笑っていた。大学生になってから、あまり結ばなくなった気がする長い長い髪が、歩くたび、ちいさな身体のちいさな揺れに同調してなびいている。
 自分はどんなお母さんだとか言うからには、三橋にも結婚願望とか、あるのかな。あったら、それはそれで面白いけど。俺も藤の花を見上げながら、どこかなつかしむように花を見上げる三橋の横顔を見た。
「帰省したら?」
「毎日してます」
「はやく、帰省したら」
「なんでよ」
「マザコンな三橋には、この藤、つらくない」
「つらかない」
 ぶすったれて言う三橋の髪と、藤の紫が風に揺らされる。藤紫、なんとなく、三橋曰く母性の色。あたたかい赤も冷たい青も混ぜて、優しい白で薄めたような色だからかもしれない。色なんて詳しくないから、よくわからないけど。
 藤はひとつひとつがすごくちいさくて、道端にぽとんと落ちているだけなら、多分その紫なんて、わからない。子供が母親の優しさに気づかないみたいに、少し散らばっているだけじゃ、わからないのかもしれない。

 けど、
「……藤紫のお母さん、か」
 成長して、もさもさになるくらいたくさんが集まった紫を見れば、あぁ藤だってわかる。あぁ、母親は優しかったんだって。
 自分はばかなやつだったなぁ、って。
 くすんだ気持ちを洗い流すみたいな藤の紫に、三橋の頭を撫でたら、少し不満げにされた。子供扱いすんなってこと、だろうか。
「藤紫は、お母さんの色かな」
「わたしのね」
「俺は藤紫、好きだよ」
「母さんにそれ言っても、たいしたアピールにはならないからね」
「わかってるよ」
 夕焼けに染まった藤紫は、なんだか笑っているみたいだ。

「帰ろうか」

 藤紫のお母さんがいる、家に。




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