最近、部屋のたばこの匂いが消えなくなってきた。というか染み付いてもう取れないのかも知れない、これは。たばこ独特の、なんというかあの匂い。でもこの部屋に染み付いているのは、何種類ものたばこの匂いではなく、たった一種類の匂い。

犯人は、分かっている。
マルボロのボックスを吸うあいつ。お巡りさんのくせにニコチン中毒で瞳孔かっ開いて、口も悪けりゃ愛想も悪くて短気なあいつ。元々禁煙で灰皿がなかったこの万事屋に、灰皿を無理矢理置いて行った(いや今も禁煙だけども)ちゃんと処理をしているにも関わらず、なんだか匂いが取れない。まったく困ったものだ。

仕方なしに、先日たまたま通りかかったドラッグストアでタイムセールにかかっていた消臭剤を振り撒いて、換気扇をフル回転し窓を全開にして匂いを少しでも取ろうとちょっと必死になってみた。

「こんなもんか」

消臭剤のお陰かなにかは知らないけれど、たばこの匂いがキツかった部屋がフローラルな香りになった(気がする)第一うちにはまだ未成年が2人もいるんだから、そもそもたばこなんてよろしい訳がない。腕を組みながら1人頷いていれば、玄関の戸がガラガラと開かれる音がした。

「邪魔する」
「…げぇ」

顔を覗かせた相手は、紛れもなくこの完全禁煙だった万事屋に悪びれもなく堂々と灰皿を持ち込みスパスパとたばこを吸うお巡りさん。マジでこんなのがお巡りさんとかこの国も終わったな。

「なんだよ、その声は」
「いやなんでも」

無遠慮にずかずか家の中へ入って来たと思ったら、ソファーにどかりと座った。おいおい、そこファブったばっかなんだけど。そんなことを思っていたら、湿ってる、と一言言って立ち上がった。

「今ファブったばっか」
「マジかよ」
「どっかの誰かさんの吸うたばこの匂いが気になるもので」

ニヤニヤと口に手を当てそう言うと、ちょっとイラッとした表情のお巡りさんが近付いて来る。素足の俺と靴下のこいつは実際然程身長は変わらなかった。ふわりと抱きしめられる。たまにしか来ないこの部屋に匂いがつくくらい吸っている筈なのに、なぜかこいつからはたばこの匂いはほとんどしない。するのはなんかよく分からないけど、こいつの匂い。

「…なんでおめぇ、たばこの匂いしないの?」
「さぁ?でもお前は甘いな」

首筋に埋められた顔。髪の毛がくすぐったい。こいつは少し微笑んでいるのだろうか。分からないけれど。

「で、今日なにしに来たの?」
「これ渡しに来た」

こいつが来る時は決まって何かしら理由がある。そう思って聞いてみれば、ソファーに置かれていた紙袋を指差し、俺はその方向へと視線を向けた。その紙袋は薄いピンク色にお店の名前だろうか、筆記体で書かれたものだった。

「明日お前誕生日だろ」
「…あ、」

そうだった、誕生日。

「どうしても明日は会えないから、今日にと思ってな」
「やべー」
「ケーキ、お前が前に食べたいって言ってたとこのやつ、買ってみた」

ずっとずっと食べたくて、でも高いのにすぐ売り切れてしまうこのお店のケーキは、とても繊細な細工が綺麗な芸術のようなものだった。まさか誕生日をこいつが覚えててくれたなんて思ってもみなかったし、しかもあのお店のケーキを買ってくれるなんて。

「…ありがと」

もう一度、今度は俺から抱きしめてみた。珍しく俺から抱き付いたからだろうか、少し戸惑う土方。いい年のオッサンがいい年のオッサンに可愛いなんて感情はおかしいのだろうけれど、可愛いと1ミリくらい思ってしまった。



染み付いた
(部屋にお前のたばこの匂いが染み付くなら、俺はお前に俺の匂いを染み付ける)



HAPPY BIRTHDAY GINTOKI!



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銀時誕生日おめでとう(・∀・)!
愛してるよ!ちゅっ!






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