次は君とティータイム 何を気に入られたのか分からないけど、私はよく治安維持局の長官たちに呼び出される。 といっても、たいがいはプラシドさんのワガママに付き合わされるだけ。 今日も拉致同然に連れて来られて、やっと解放された所だ。 さっさと帰ろうと長い廊下を歩いている時── 「いっつもいっつもプラシドばっかり」 「え?」 背後から聞こえた声に振り向こうとした瞬間、ふくらはぎに痛みが走った。 「痛っ」 床に膝をつく。ふくらはぎは言うほど痛くはなかったけど、蹴られたのだということは分かった。 振り向くと白い布を被った男の子。いかにも不機嫌そうに口をとがらせている。 「りんが悪いんだぜ。ボクに構わないから」 「ちょっとルチアーノくん」 「こっちに来いよ」 まだ微かに痛む足をかばいながら、よっこらせ、と立ちあがると「ババくせー」と鼻で笑われた。 もう、いつになったら帰れるんだろう。 「座りなよ」 応接室のような所に案内されて、促されるままにソファーに腰掛ける。ルチアーノくんは私の向かい側。テーブルを挟んで向かい合うような格好になっている。 「で、なにか用かな」 「紅茶」 「え?紅茶?」 「さっさと用意しろよ」 確かにテーブルの脇には陶器のティーポットやカップ、紅茶の葉が入った瓶の置かれた台がある。……って、これ私が淹れるの? ルチアーノくんは足を組んで私をジッと睨んでいる。 「なにモタモタしてんだ」 「はいはい、今準備するから」 そういえば今日はプラシドさんにコーヒー淹れるように命令されたなぁ。まあ、1から紅茶を淹れる機会なんてあんまり無いから勉強だと思ってやるしかないか。 お茶の葉は一種類。ルチアーノくんの好みなのかな? ポットから飴色の液体をカップに注ぐ。湯気に混じって果物のような香りが広がる。 「砂糖とミルクは入れる?」 「いらない」 「じゃあ、はい。どうぞ」 ルチアーノくんはカップを受け取ると、息も吹きかけずに口をつけた。 「お味はいかが?」 わざとかしこまって聞くと、柔らかそうな頬っぺたが薄く染まった。 「お前にしては良いんじゃないの」 「それはどうも、ありがと」 ルチアーノくんはカップを煽って、中身を一気に飲み干してしまった。 熱くないのかな? ちょっと心配になったけど、本人は平気な顔をしている。 「りん、ここに来る時はこの部屋に寄れよ。絶対だぞ」 「……もしかしてプラシドさんに自慢でもするの?」 綺麗な瞳が大きく見開かれた。 機嫌悪くするかな? ただ、この部屋に来る前に言われたことが気になったから言ってみたんだけど。 私の予想に反して白い頬が赤く染まった。 「か……お前には関係ないだろ!!」 「関係ないの?でもここにはプラシドさんに呼ばれて来る時もあるし──」 「なんであんなヤツの名前が出てくるんだよ!お前はまっすぐボクの所に来れば良いんだ!」 可愛いなぁ、と不意に思う。自分のおもちゃを他人に取られたくない子どもみたい。わがままだけど、でもそれとは少し違う何かがあって。 その『何か』がなんなのかは分からないけど、でも、それがすごく可愛い。 口には出せないよ。言ったらもっと怒りそうだし。 「じゃあ、次はお菓子を作って持ってくるね」 そう言うと、ルチアーノくんは拗ねたように私を見た。 「ボクの口に合うやつにしろよ」 私は、はいはい、と返事をして空になったカップに温かい紅茶を注いだ。 |