瓦礫の世界で 果てしなく続く荒廃した世界。 私はひたすらに、あてもなく歩いた。 誰がこんな世界を望んだのだろう。地面は割れ、水は枯れ、生命の絶える世界。こんな世界は誰も望まなかったはずなのに。 どれくらい歩いたのだろう。 時間などわからない。 足の疲れも気にならない。 突然終わった世界と共に私自身もどこかへ消え失せてしまったみたいに、泣くことも笑うことも怒ることも、全てが億劫になってしまっていた。 歩みを止めて、空を見る。 雲のかかった空。 月も太陽も映りはしない。 それでも視界が明るいのはきっと、あの雲の上に太陽があるから── 「──りん!」 ああ、やっぱり……。 私を呼ぶ声。 それはとても心地よくて、同時に胸が苦しくなるのが分かる。 忙しない足音。 「りんっ!」 今度は耳元で聞こえた。 同時に後ろから逞しい腕に抱きしめられる。 背中に感じる体温。 首を捻って彼の方を向けば、赤いサングラスの奥で暗い瞳が潤んでいた。 「どうしたの、アンチノミー」 「『どうしたの』じゃない!なぜ僕から離れたりするんだ。君にもしものことがあったら──」 「もしものこと……」 この世界を襲う殺戮兵器はもうほとんど無いのだと、ゾーンは言っていた。だからといって全てが安全であるとは限らない。 でもアンチノミーが心配しているのは、きっとそういうことじゃない。 「その『もしものこと』が……私が死んだら、今みたいに追いかけてきてくれる?」 ……最低だ。 瞳が見開かれるのを見て、顔を背けるようにして前を向く。突き飛ばして、どんなに遠くに離れても、必ず彼は私を追ってくる。 それは私がこの世界に絶望して消えてしまうのを恐れているから。 分かっているのに。 そして今みたいに、こうやって私を抱きしめてくれる。 分かっているからこそ、それを待っている私は、なんて酷い女なんだろう。 「……ごめんなさい。今のは忘れて」 アンチノミーの手が私の肩を掴み、振り向かせるようにして私と彼とを向かい合わせる。 彼のまっすぐで真剣な目は、見ているだけでつらかった。俯いてその胸に体を預け、広い背に腕を回す。 彼の唇が耳をかすめる。 「僕が守るよ。君を絶対に死なせたりしない。そんなこと……させない」 私の髪を優しい手が撫でた。 「……ねぇ、りん」 「なに?」 「今すぐは無理かも知れないけど、ゾーンたちと一緒に元の世界を取り戻してみせるよ。片鱗だけでも絶対に」 「うん」 「そしたら、また笑ってくれる?」 彼の手が私の前髪をかきあげる。 「りんの笑顔が見たい。幸せそうなりんを見たい。前みたいにりんの作るご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝て……」 さらされた額に唇が柔らかく落とされた。 「そうだ。りんに両手いっぱいの花を贈るよ」 その花を結婚式のブーケにしよう── そう言って、彼は笑った。 |