イノセント メランコリー2/5
それから2日が経った。
その間に、シエルはアバーラインからリユが目を覚ました事、彼女を危ない目に遭わせていない事などを聞かされていた。
どうやら警部補に任せておいても、少女の身は安全らしい。
それと同時に、ファントムハイヴ家と繋がりのある者達に、シエルは陰で連絡を取ろうと試みていた。しかし。
細い三日月の浮かぶ夜。
シエルは軟禁されていた部屋から抜け出し外へ出た。
「どこに行くんだ?シエル君」
背後から聞こえた声に、足を止めて振り返る。
「いい加減幽閉にも飽きた。散歩にでも行こうと思っただけだ」
アバーラインが、そう言う少年に問い掛けた。
「一人で出て行って、それで何が出来ると言うんだい」
「我が紋を見くびってもらっては困る。ファントムハイヴが裏社会にどれだけの年月、睨みを効かせてきたと思うんだ。操れる駒は、まだまだある」
「君がこの何日か連絡を取ろうとしていた連中かい?」
そう、連絡を取ろうとしていたのは、昔からファントムハイヴ家と繋がりのある、裏社会の面々だった。
「だがその誰も、君に手を差し伸べようとはしなかった…。違うか?シエル君」
アバーラインの目が、シエルを見据える。
「裏社会の繋がりは、恐怖と、そして利益によってのみ成立するものだ。今の君に、それはない。」
「だとしても僕は行く」
“全ての駒が奪われ、ただキングのみが盤上に残されているだけだとしても”
「誰の力もあてに出来ないと言うならそれで構わない」
少年はきっぱりと、笑みを浮かべて言い切った。
「もともと僕は一人だ。ファントムハイヴの呪われた紋に生まれた者の宿命だ。お前などには分かるまい。アバーライン」
「その為に、御両親も殺されたんじゃないのか?」
その言葉に、シエルは目を見開く。
「資料で読んだよ。ランドル総監に話も聞いた。君の過去も、君が裏の世界を仕切る、女王陛下の番犬である事も。」
「…それが?、話は終わりだな。それに、言った筈だ。僕に構う余裕があるなら無実のメイドを何とかしろと。」
背を向けた少年に、アバーラインが声を上げた。
「何故一人で戦おうとする!?何故誰かに助けを求めない!?」
彼に背を向けたまま、シエルは答えた。
「僕は味方なんか要らない。ゲームをするのはこの僕。駒さえ居ればそれでいい。」
歩き始めた少年伯爵の背を、アバーラインの言葉が追い掛けた。
「僕が味方になる!」
シエルははっとして、その歩みを止めた。
振り返ると、警部補は笑顔で、そしてしっかりとシエルを見つめていた。
「そう。僕が君の味方になるよ。シエル君」
「アバーライン……」
「さあ、先ずはあの子を連れ出そう」
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