傾城寵姫 或是、桃源女巫2/2
「相変わらず嘘がお上手でいらっしゃいますね。坊ちゃん」
劉と藍猫に挨拶をするリユを置いて、先に馬車へ戻ったシエル。
馬車へ乗り込んですぐ、執事は馬車の外からそう言って微笑した。
「何の事だ?」
横目で冷ややかに一瞥すると、執事は笑みを刻む口元に手を添えた。
「目的の為に傍に置いている、などと仰るものですから。リユのその件をお話したのは、つい先日ではありませんか」
「……別に間違ってはいないだろう。何も、“いつからの目的”とは訊かれていないからな」
「左様で御座いますか」
つい先日、天使アンジェラがシエルの両親を殺害したのだと知った時。
あの天使は異世界から来たリユも邪魔に思い狙っているだろうと、アンダーテイカーから知らされた。
そしてシエルはセバスチャンに告げたのだ。
天使がリユを狙うなら、少女を囮にする。
何があっても、自らの傍に置いておくと。
勿論、リユにはその話はしていない。
しかし、シエルは気に掛かっている事があった。
あの修道院で、短時間とは言えど少女は天使と対峙している筈。
そして、昨年の夏に赴いたハウンズワース村での少女の不機嫌さ。
もしかすると彼女は、自らが天使に狙われている事を分かっているのだろうか。
死神の存在も悪魔の存在も、初めから知っていた風な彼女。
だとすれば、アンジェラが天使だと知っていたとしても可笑しくはない。
その時、慌てて馬車に駆けてきた少女が目に入り、シエルは思考を切り替えたのだった。
(一度として、僕に悪魔と契約した理由も過去も聞いてこない癖に、)(まるで時々、彼女は何もかも見透かしているんじゃないかと錯覚を起こすのだ)
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