その姫、奔放5/5
騒がしい1日はあっと言う間に過ぎ、晩餐の時間がやってきた。
食堂のテーブルにつくのは、屋敷の主とインドの王子と中国人マフィア。なんとも異色の組み合わせだ。
「お前らはいつまでいる気だ」
「用事が済んだら出ていく」
シエルに返したソーマの言葉を聞き、劉が口を挟んだ。
「そういえば人捜しとか言っていたねぇ」
「だから何でお前まで泊まって、」
「さあ?何故だろうね?」
そう言ってとぼける劉は斜め後ろに控える私に笑いかける。
シエルは一瞬首を傾げたが、向かいに座るソーマが口を開いたので其方に向き直った。
「俺は女を探している。名をミーナと言って、俺の宮殿で召使いをしていた」
ソーマは懐から紙を取り出す。
そこには幼稚園児顔負けの、落書きのような女性が描かれていた。
駄目だ。実際見たら笑いそう…似てなさ過ぎるよミーナさん。
「セバスチャン、それで捜せるか?」
「私でもこれは流石に…。努力しましょう」
「で?その女は何故英国に?」
ソーマは英国へ来た理由を語り始めた。
「ミーナは俺の侍女だった女で、まあ乳母みたいなもんだ。物心ついた頃からずっと一緒だった。親父様も母上も、俺に見向きもしなかった…。宮殿にいつも一人で…。でもミーナはいつも俺の傍にいてくれた。…だけど、ミーナに目を留めた英国貴族が、俺の留守中にミーナを無理矢理英国へ連れ去ったんだ…っ!」
悔しそうな彼とは対照的にシエルは大して興味なさげに言う。
「つまり、英国には女を連れ戻しに来たと言う訳か」
「そうだ。絶対に取り戻して一緒に帰る」
強い口調でソーマは告げた。
「……、大袈裟な…」
一瞬口を噤んだ後でシエルは呟く。
その言葉にソーマは椅子から立ち上がって叫んだ。
「大袈裟じゃないっ!!」
そのまま椅子に座るシエルに掴みかかった。
「お前にミーナと引き離された俺の絶望が分かるのかっ!?俺がどんなにっ、」
「分からんな」
自分を射抜く冷たく鋭い瞳にソーマは息を飲んではっとする。
シエルは強く静かな口調で続けた。
「その程度の事で感じる事の出来る高が知れた絶望など、僕には理解できないし、する気もない」
シエルは自分を掴む腕を振り払い扉へと向かう。
「どんなに足掻いても取り戻せないものもある。脱け出せない絶望もある……。お前には理解できないかも知れんがな」
そう言い残して、小さな伯爵は食堂を後にした。
閉まった扉から視線を落とし、ソーマは静かに呟く。
「でも…それでも俺はもう嫌だ。あの宮殿で一人になるのは…」
大切な人がいなくなる虚しさと辛さは、私も、きっと耐えられない。
「あ、リユ〜」
晩餐後、廊下を歩いていると前から劉が歩いてきた。
「劉さん、」
「いやあ今日は楽しかったよ。リユの色んな格好が見れて」
「ほんとに?ありがとうございます。でも劉さんのお陰ですよ」
にこりと笑う彼は、そういえば…と、首を傾げた。
「さっきから伯爵を見てないんだけど、どこにいったのかな?」
「シエルさんならソーマ王子の部屋にいると思いますよ」
ソーマの使っている客室まで行き扉を開けると、ランプの灯った部屋の椅子にシエルが腰掛けていた。
「あ、ほんとだ。いたいた。伯爵ぅ、あのさあ、」
「ああ"?」
振り返った彼は酷く機嫌を損ねていた。
シエルの手の中でトランプの箱がぐしゃりと握り潰される。
シエルの機嫌をとる為、私達は応接室へと移りトランプをする事になった。
窓の外に雪がちらつき始めた頃、出掛けていたソーマとアグニが屋敷へ帰ってきた。
「戻ったか」
「ぶっちゃけすごい怪しいよね、あの二人」
「それはそうなんだが…。奴らに事件を起こすメリットが見つからん。あの様子から見て植民地支配による怨恨の線も薄い。だいたいもし犯人ならあんなにあからさまに僕の前から出掛けて行くか?疑ってくれと言ってるようなものじゃないか」
確かにその通りだった。
二人をセットで疑うなら犯人とは断言しにくい。
「そうだよねぇ。じゃあほんとに人捜ししてるだけなんじゃない?」
呑気な劉の言葉と共に、シエルは手にしていたトランプをテーブルに広げた。
「うわぁ…シエルさん強ーい」
流石ゲームの天才。
カードゲームでも負けなしだ。
「まだ結論を出すのは早い」
窓の外を眺めるシエルの横顔は、ちらつく雪を眺めていた。
(よく降りますねーさすがは英国)(リユ、明日は雪掻きを任せたぞ)(ええ?こんなか弱い私に雪掻き!?ひどーいシエルさんの鬼ー)(ほんとだね。伯爵の鬼ー)(うるさい!冗談だろうが!鬱陶しい奴らだな)
(さーて、私はそろそろお着替えタイムですよ。まだ、ファッションショーは終わってません)
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