眠り姫は夢から醒めたpart2 | ナノ
その姫、質疑2/4

天使の放った鋭い光りが、私の立って“いた”場所に大きな音を立てて落ちた。
その名残は通路を滑るように焼けた光りの跡を作る。


「全く…、逃げるか隠れるかすると言ったでしょう」

溜息混じりの美声に、焼け跡を作った通路からそちらへと目を向ける。
私を腕の中で横抱きにしたセバスチャンは、呻く信者達を足下に、長椅子の細い背凭れの上に立っていた。

「セバスチャンさん………、どうやってバランスとってるんですか…」

地面に立っているのとなんら変わらない安定感。
それが逆に怖くて青褪める私に、彼は微笑を浮かべる。
そのまま飛び上がったと思えば、一瞬先にはセバスチャンに抱き上げられたまま先程の通路に戻っていた。

セバスチャンの紅茶色の目は天使を捉えたままで、私は下ろされると同時に長椅子の間へ押し込まれる。

すると、その長椅子に座る信者の女性が此方を見上げた。
マチルダ シモンズだった。

どうやらちゃんと、死神図書館から彼女のドゥームズデイブックで転送される流れ通りだったようだ。


「天使に葬られる事を願うとは、殊勝な悪魔ですねえ。セバスチャン ミカエリス」

天使に言われた燕尾服の悪魔は艶やかに微笑する。

彼の体がゆらりと揺れた。
次の瞬間、セバスチャンはアンジェラの立っていた壇上へと移動していた。

しかし、アンジェラは翼を広げて舞い上がる。
透かさずシルバーが上空に放たれるが、天使はそれを躱して降り立った。

「無垢なる羽根を持つ天使に、悪魔が太刀打ち出来るとでも?羽根のない悪魔は、地に縛り付けられる。永遠に。」

「地に?そうですか。ならば貴女は、天に縛り付けられるといい。」

その瞬間、アンジェラの背後から高枝切り鋏の刃が飛び出した。

振り向いた彼女は、ウィリアムのデスサイズに首を掴まれ、礼拝堂の高い壁へ張り付けにされる。
ウィリアムがグレルの名前を呼び隣りに同じタイプのデスサイズを投げると、図書館から転送されて現れたグレルがそれを受け取った。
グレルの手から伸びた高枝切り鋏の刃が、アンジェラの掌を貫通し翼へと突き刺さる。

苦しげに顔を歪める天使と、歓喜の声を上げた赤い死神。
しかし、眼鏡の死神は上機嫌の彼に冷静に釘を刺す。

「後で洗浄して返却しなさい」

「アアン、いけずっ」

「これは面白い余興ですねぇ。ここは一つ、ダーツボードと洒落込みましょうか」

セバスチャンは張り付けにされた天使を見上げて笑う。
彼の放ったシルバーは、わざと急所からずれてアンジェラを貫く。

「外れ、ですねぇ。さあ、次はどこに当てて差し上げましょう?」

「アタシもやりた〜いっ!」

「悪趣味な…。」

悪魔に賛同する死神と、非難する死神。

と、突然、デスサイズで張り付けにされたアンジェラが吼えるように声を上げ始めた。
それに伴い天使の身体は強い光りを放つ。

礼拝堂が揺れ始め、建物が崩れ始める。

「何を…っ、己ごと崩壊するつもりですか!?」

「不浄で消せ、不要で消せ……」

「チョットッ、崩れるワヨ!?」

信者達と一緒に闘いを見守っていた私の頭上にも、パラパラと瓦礫の粉が降ってくる。

セバスチャンは此方を振り返り、マチルダに目を向けた。

「逃げるも逃げないも、あなた方の勝手ですが?」

「あっ、は、はい…っ!」

瓦礫が落ちてくる中、礼拝堂から逃げ出す信者達。

建物を支えていた柱も崩れ始めると、教祖の棺の上にも大きな瓦礫が落下した。

「グレル サトクリフ、私達も撤退しますよ」

走って出て行くグレルと歩きながら小言を洩らすウィリアム。

セバスチャンは天使に背を向け、

「さあ、私達も行きますよ」

「え、…わっ!?」

燕尾服のジャケットを脱ぐと私の頭に被せて抱き上げた。

その場を走り去る彼の肩越しに、私は張り付けにされたまま瓦礫と土埃で霞むアンジェラを見上げる。

次、また彼女に会う事はあるだろうか。
ふと、そんな考えが頭を過ぎった。
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