その姫、入信1/4
此方に向かって微笑む、修道服を着た若い女性。
「ある年齢を越えた者は、皆不浄と呼ばれるのですよ」
穏やかに説明する彼女は、私達から離れた所に立っているシエルとセバスチャンにも目を遣った。
「その服装は、まだ入信したばかりですね。大丈夫、此処で教祖様からの教えを授かれば、その身は清められます」
「おいっ、此処は、」
険しい顔で問い詰めようとしたシエルを、執事が手で制し代わりに口を開いた。
「不浄?可笑しな話ですねぇ」
セバスチャンは彼女の所へ歩いて行き話を続ける。
「貴女のように美しい方が穢れているなどと。」
「え…、あ…っ」
彼女は戸惑いながら扉に背を預け、長身のセバスチャンを頬を染めて見上げた。
彼は柔らかに、けれど艶っぽい微笑を浮かべて彼女を見下ろす。
「この教団の事が、まだ何も分からないもので。詳しく、お話を聞かせて頂けませんか?」
甘い美声と容姿に女性はうっとりしながら承諾するが、
「あ、なら…どうして此処に、」
と言いかけて、突然顔の横にセバスチャンが手をついたので驚いて目を瞑った。
そのままセバスチャンは彼女へ顔を寄せ「虫です」と囁く。
そして体を離すと白手袋の掌の死骸をふぅっと吹いた。
彼は緩やかに、紅茶色の目を細めて微笑む。
「お話を、聞かせて頂けますね?」
その口調は、相手が話をする事に確信を持った問いかけである。
彼女は頬を染め、大きな緑の瞳を揺らしながらセバスチャンを見上げて、震えながら頷いた。
所変わって修道院の離れた場所にある小屋の外。
すっかり日は沈み、広い夜空には星が瞬いている。
が、しかし。
綺麗なお星様〜、と観賞してる訳じゃない。
小屋から聞こえてくるのは、女性の甘い声。
私の隣にいる赤い死神は怒りに震えガルルル…ッ、と歯を食いしばっている。
一方、少年伯爵は至って冷静で。
「こういう手も使うのか。あいつは。」
はー…さすが13歳の天才社長だ。
「……………って、いやいやいやシエルさん!!これはやっぱり駄目でしょ!R指定でしょ!」
無駄に響く声を聞かせまいと慌てて彼の耳を塞ぐ。
て言うか悪魔執事!
これは坊ちゃんの教育方針に背かないんですか!?
ご主人様を健全な青少年に育てなくて良いのですか!
慌てふためく私の隣では遂に耐えきれなくなったグレルが、彼女を死亡予定者リストに載せると騒いでいる。
「……僕よりもお前だろう。大丈夫か」
シエルは気まずさ半分気遣い半分な様子で私に問う。
「わざわざ此処まで着いて来なくても良かったんだぞ…」
「私は平気ですよーやだなぁシエルさん」
「ハッ、そぉーんな赤い顔で言ってちゃ世話ナイわ。これだから小娘はっ」
「黙れオカマめ!これが世間一般の健全な反応なんですー!と言うかシエルさんが冷静過ぎるの!大丈夫ですか13歳お年頃!?」
「お前に言われたくないな」
「またそんな冷めた事を…!じゃあエリザベス様だったらシエルさんどーなんですか!?」
「はアァあ…!?」
許嫁の名を出した途端、シエルの声が裏返った。
「お、お前…っ、な、なんっ、馬鹿か…っ!なんで其処でエリザベスの名前が出るんだっ!!」
真っ赤な顔で後退りするシエル。
何この人可愛い。
からかって良いですか…!
「ハア…まったくどいつもコイツもガキね」
やれやれと首を振るグレル。
と、いつの間にか静かになっていた小屋からセバスチャンが出て来た。
離れた所で待つ私達に笑顔で手招きしている。
……どうやら終わったらしい。色々と。
ゴホンッ、と咳払いしたシエルはまだ赤い頬を誤魔化して小屋へ歩いて行く。
グレルは、……もうセバスチャンの所にいた。
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