その姫、奔放4/5
それまで黙って観戦していた劉は、転がっていたフルーレをセバスチャンへと投げる。
「まったく…。ルールを知らない素人に意地悪するからですよ?」
彼が軽くフルーレを振ると、すっと空が切れる音がした。
「ですが、こうも簡単に主人を敗北させられたとあってはファントムハイヴ家の執事として、黙っている訳にはいきませんね。…何より予定を10分も押してますし」
「お前…そっちが本音だろ」
そう言うシエルにセバスチャンはにこりと微笑んだ。
「そうですね、本音を言えば戦力外の小さいメイドへの同情も、でしょうか?」
…戦力外って私のことか!
「面白い…良いだろう。決闘を許す。アグニ、カーリー女神の名にかけて絶対に負けるな」
ソーマはアグニにフルーレを渡す。私の側に屈んでいた彼は立ち上がってそれを受け取った。
シエルも立ち上がると自分の執事に命を下す。
「セバスチャン命令だ!あのガキを黙らせろ」
黄色い執事と黒い執事は互いに向き合って主に返事を返す。
「ジョー アーギャー」
「イエス マイロード」
二人の動きはほぼ互角だった。
剣を交わす速さも突きの速度も身のこなしも。
思わず魅入ってしまうような執事達の戦いにシエルもソーマも劉も釘付けである。
しかし私はその背後で、三銃士の衣装の下に着ていた服に慌てて着替え直していた。
と、その時、短く高い音が響き私はセバスチャンとアグニの方を振り返る。
どうやら互いのフルーレの先がぴたりと合わさった事で剣が折れてしまったようだ。
試合は引き分けとなり、シエルは目を見開いて驚いていた。
アグニを誉めるソーマ達から離れ、彼は執事のもとへ歩み寄る。
「セバスチャン、あの男…一体何者だ。まさかまた…、」
「いえ、あの方は人間DEATH☆」
「そうか…。しかし、あれだけの力があれば…」
「ええ。人間を逆さ吊りにする事など、訳もないでしょうね」
碧の隻眼がインド人執事へと向けられる。しかしシエルの鋭い視線は、不意に何かを探すように動いた。
「……?おい、リユは何処に行った?」
「おや?先程までそこに…」
あ、私を探してくれてたのか。
シエルの後ろに立っていた私は気付いていない彼の肩を軽く叩いた。
「「…………!?」」
振り返って私を見た碧と紅茶色の瞳がぎょっと見開かれる。
「なんなんだその格好はっ…」
「貴女、その髪は一体…」
真っ赤な長髪の鬘にセバスチャンはあからさまに嫌悪感丸出しだ。
赤いフレームにドクロのチェーングラスがついた眼鏡を少し下げて、
「これでもメイドDEATH☆」
と、ポーズを決める。
「馬鹿かお前は!」
「没収です!」
シエルに眼鏡を、セバスチャンには鬘を引ったくられてしまった。
どうやら赤い死神のコスチュームはお気に召さなかったらしい。
…結構な値段したのに!
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