眠り姫は夢から醒めたpart2 | ナノ
その姫、潜入2/4

階下に光りを入れる為の天窓から人影が落ちた。
顔を上げれば、窓から此方を覗く人物がガラス戸を叩きワンワン吠えている。

「プルートゥ!」

シエルが見上げて彼の名を呼ぶ。

最近はセバスチャンの躾の成果か、人型の時はちゃんと服を着て大人しくしているのだが。
今日はやけに嬉しそうに此方に向かって吠え続ける。
と言うか、何度見ても人型バージョンの魔犬には慣れない…。
成人男性が四つん這いでワンワンは酷いよ…。

が、上機嫌で吠えていたプルートゥは唐突に悲しげになり去っていった。

シエルは窓を見上げていた為、訳には気付かない。
しかし私は、魔犬がアッシュに懐くように吠え、その彼に睨みつけられたから去っていったのだと知っている。
…やっぱり、彼は怪しい。

アッシュは何事も無いように穏やかな顔で窓から此方へ振り返った。

「どなたですか?」

「ただの使用人ですよ」

セバスチャンが微笑みながら答える。
アッシュはもう一度窓を振り返った。

「成る程。楽しそうな御方ですね」

呟く白い執事の横顔を、燕尾服の執事は眉根を寄せて見つめていた。
と、そんなセバスチャンをさり気なく見ていた私は、アッシュから視線を移した彼とばっちり目が合ってしまった。
私が見ていたのが意外だったのか、セバスチャンは此方を見下ろして僅かに目を見開く。

うわ!気まずいっ…まさか、どうしてアッシュさん睨んだのー?なんて聞けないし!

仕方無く無言で見つめ返す。と、彼は先程のアッシュの様に何事もないという風に執事の顔で私に微笑んだだけだった。



「さて、どうする。」

アッシュを見送ってから、シエルとの久々のおやつの時間。
目の前に置かれた今日のスイーツはヴィクトリアスポンジケーキだ。

シエルは給仕をするセバスチャンと今回の任務について話しを始めた。
私は二人の会話を黙って聞きながらケーキを食べる。

「アッシュ様のお話では、修道院には厳重な警備が施されているようです」

「正面からの潜入は難しいか……」

「そう言えば、こうも仰っていましたね。近頃、修道院に大量の棺が運び込まれているらしいと」

「棺……、」

ケーキを口に運ぼうとしていたシエルは手を止めて、思案するようにそう呟く。

「棺と言えば葬儀屋さんですね!」

「ああ、まずは奴の所だな……」

「シエルさん、憂鬱そうな顔しなくても大丈夫ですって。笑いはリユちゃんに任せなっさーい!ですよ」

まあ、今回笑い提供の必要は無いけど。

そう言えばアンダーテイカーとはクラレンスの件で会って以来、そして例の赤いあのヒトと会うのはエリザベス行方不明事件の屋敷以来だ。
結構経つけど、あの時蹴り上げた事、根に持ってないのを祈ろう…。

あれこれ思い返していると、碧の隻眼が此方を向いた。

「リユ、今回はあのピストルを持っておけ。連れては行くが、僕もセバスチャンも任務を優先するからな。万が一危なくなったら迷わず使え」

分かったか?と問い掛ける目は、私を測るようで。
私は表情を引き締めて頷き、返事をしたのだった。
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