眠り姫は夢から醒めたpart2 | ナノ
その姫、潜入1/4

英国で一番寒さの厳しい時期が、緩やかに過ぎ去っていくのを感じる今日この頃。
天気も良く、霧も晴れている。
それに加え、朗らかに笑いながら緑茶を楽しむだなんて、まさに穏やかなひと時だ。

しかし私の心の中は嵐のように荒れていた。


「ほーらタナカさん、スズオカさん、茶柱が3本も立ってますよ。今日は良い日になりそうですねぇ」

「ほっほっほっ」

「そ、うですねー…」


だってね!今一緒に湯のみでお茶飲んでる相手が、女王の白執事なんだもん!

彼に会うのは二度目、会話をしたのは今日が初。
でも疑惑のある人ナンバー2なんだもん!因みにナンバー1は、言わずと知れた天使さんですよー…。

いやまさか、屋敷に来るのは知っていたけど一緒に緑茶タイムするとは思わなかった。
3人で椅子の上で正座しながら、なんて。

内心冷や汗ダラダラだと思っていたら、唐突に部屋の扉が開いた。

「貴殿はっ!女王の執事…っ!」

入って来たのは屋敷の主。
後ろに燕尾服の執事を従えて、驚いた顔で白執事を見ている。
どうやら先程の朗らかな笑い声が聞こえていたようだ。

ありがとう!シエルさんナイスタイミングだよ!
もうちょっとでリユちゃんじぇじぇじぇじぇ(?)ってなりそうだった…!

「これはシエル様、お見苦しい所をお見せ致しまして」

女王の執事、アッシュは椅子から立ち上がって背筋を正した。

「何故女王の執事が僕の屋敷で茶を?」

「坊ちゃんは御存知ありませんでしたか。今までも、女王陛下からの命は全てアッシュさんが届けて下さっていたのですよ」

セバスチャンの説明にシエルは首を傾げる。
私もこれに関しては不思議だった。
執事が手紙を云々以前に、彼が手紙を届けに来た所を一度も目撃した事がないのだ。

事前に知っていたから、もしかしたらその内屋敷内で会うだろうかと身構えていたけど。
彼が手紙を持って来る場に遭遇した事は今日までなかった。

どうやって、執事さん達会ってたんだろ。
て言うか会話とかしてたのかな。見たかったような見たくないような。


「執事がそんな仕事を…?」

「執事たるもの……、
陛下のお昼寝中に謁見希望者のドゥームズデイブックを調査し、その足でファントムハイヴ様のもとへ封筒を届けたついでに、タナカさんと優雅にお茶が出来なくてどうします?」

シエルの問いに早口で答え切り、茶を啜るアッシュ。
そんな彼に少し呆れ顔で、茶については出来なくてもいいんじゃないかとシエルは呟く。

「で、アッシュさん。今回の御用件は?」

本題を問うセバスチャンに、彼は茶を飲み干し此方に向き直った。



プレストンの外れにある現在は使われていない修道院。
そこに異質な教義を謳う教団が集まり始めたと言う。

「何でも、その教祖は信者達のドゥームズデイブックを全て手にしているとか。」

「土地台帳の事か?家畜や財産などが載っている…。しかし、それを知った所で何になる?」

そう問う少年伯爵に、白い執事は答えた。

「いえ、彼らが崇めるドゥームズデイブックとは、それとは趣(おもむき)が異なりまして。
ドゥームズディ、最後の審判の日。神の身元に投げ出された際に必要となる台帳。その者が犯した美徳悪徳が全て刻まれているという…」

「またオカルトか……」

シエルは右手を頭にやって溜息混じりに言った。
前回は番犬の仕事でないにしろ、幽霊だったものね。

アッシュは大袈裟な手振りで話を続ける。

「彼らは政府に対し蜂起を目論んでいると言う噂もあります。プレストンの住民達が異端の者達の陰に脅えていると女王陛下はお嘆きになっています」

シエルは腕を組み、番犬の顔で言った。

「それは、その者達を解散させろと言う事か?それとも、根絶やしにしろと言う事か?」

「その判断はお任せ致します」

一瞬、鋭く目を細めた女王の執事。しかし、すぐに柔和な態度で頭を下げる。

「承知した。」

と、その時。
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