その姫、魂魄4/4
そして深夜。
エドワード五世を尾行して、シエルと私は昼間過ごした図書室へ辿り着いた。
溶けていくかのように、本棚の壁の中へ姿を消すエドワード。
シエルはその壁へ近寄って本に触れた。
「この本は偽物だ。すると隠し扉か…」
「隠し扉って、如何にもお城って感じですね」
「失礼致します」
「わ…っ!」
音もなくその場に現れた執事。
毎回びびる私と違いシエルは至って冷静だった。
「何のようだ?」
セバスチャンは懐から鍵を取り出し、偽の本棚の一冊に触れた。
するとそこが開き鍵穴が姿を見せた。
彼が鍵を差し込もうとするとシエルがそれを制した。
「おいセバスチャンっ、」
「どうされました?お客様?奥へ行かれたいのでしょう?」
「僕は何も命じてないぞ。何故勝手に動く!?選ぶのは僕だとあれほどっ」
「サービス、ですよ」
「ああ?」
執事を碧の隻眼が睨み付けた。
「滞在中のお客様に御満足頂く秘訣は常に先読みして動く事です」
14世紀スタイルの執事は、不機嫌な伯爵に向かってにっこりと笑顔を向けた。
「イングランド王室の執事たる者、これくらい出来なくてどうします?」
「貴様殺すぞ……」
清々しい執事と対照的にシエルからは殺意のオーラが溢れていた。
「では、此処は開けなくて宜しいんですか?」
「開けろ」
「畏まりました」
鍵が開くと偽の本棚は鈍い音を響かせてゆっくりとスライドした。
その奥に現れたのは広く暗い通路。
先がはっきり見えないが僅かな燭台が高い天井近くの壁面から、ぼんやりと照らされている。
「これはっ……」
シエルが見渡す視線の先には無造作に人骨が散らばっている。
実際に目にすると薄ら寒く、そしてとても寂寞(せきばく)とした光景だと思った。
(納骨堂のようですね)(…………。)(おや。顔色が優れませんね。如何なさいました?御気分でも悪いのですか?)(そんなっ、丁寧な口調で!めちゃくちゃ面白そうに気遣わないで下さいっ)(ほら、急がれないと先に行ってしまわれますよ)(え、あっシエルさん…っ、やっ、置いてかないで下さいぃ)
(其処は行き場無く彷徨う、魂達の集まる場所)
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