眠り姫は夢から醒めたpart2 | ナノ
その姫、魂魄2/4

所変わって、現在チェス盤を置いたテーブルを挟み、シエルとエドワードは対峙している。
エドワードが勝てば執事を、シエルが勝てば城を。
そう条件を出した少年王に、少年伯爵は不敵な表情で言った。

「後悔…なさいませんよう」


先手は白のエドワードだ。

「ゲームは公明正大に。そうでなければ楽しくない」

エドワードが言えば、シエルも「同感です」と頷いた。

互いに駒を指しながら、ゲームは坦々と進んでいく。
先に勝利に手を掛けたのはシエルだった。

「約束は守って頂きますよ」

黒い駒が白を追い詰める。
しかし。
勿論だ、と答えたエドワードの駒の形が突然変化した。

そして、チェックメイトを決めたのは白だった。
ゲームの天才が敗れた瞬間だ。

「陛下っ、公明正大にと言う御言葉は嘘だったのですか!?」

シエルは思わず声を荒らげた。

「今、何と言った……」

エドワードの纏う空気が一変した。

「陛下…っ、」

少年王は鋭い目つきで向かい合う伯爵を睨みつける。

「私は嘘など吐かない。嘘は嫌いだ…!」

エドワードは自分の白い駒を手に取る。

「これは私の駒。自らの能力を最大限に用いるだけだ。不正ではない」

緊張感漂うそこへ、割って入ったのは執事の涼しげな声だった。

「恐れながら陛下、」

エドワードは発言を求めたセバスチャンに目を遣り、それを許す。
一礼してから燕尾服の執事は静かに告げた。

「我が主はどうやら自らの信念をお忘れのようなのです」

「なに…っ?」

執事が言うとシエルは顔を顰めた。一方セバスチャンはそのまま言葉を続ける。

「表面的なルールに縛られて使える駒を最大限に使わずに負けるような奴は、馬鹿だ、と言うのが主の持論で御座います」

うわあー、今それを言わなくても…と思わずにはいられない。
案の定、シエルもバツが悪くて言い返せないようだ。

エドワードはそれなら問題はないなと言い、弟に声を掛けた。
するとリチャードはセバスチャンの元へ駆け寄り腕の裾を掴んだ。
嬉しそうに執事を見上げる幼いリチャード。
いいなぁ、私も懐かれたい。

シエルは不機嫌そうに執事へ命を出した。

「命令だ。お二人に誠心誠意お仕えし、満足させて差し上げろ」

「宜しいのですか?」

「仕方無い……負けたのは僕だ」

不服な声色の主人に、執事は嫌味な程いつも通り頭を下げた。

「イエス マイロード」


エドワード五世が遊び足りないという理由から、ファントムハイヴ伯爵は客として迎えられる事となった。
が、新しい執事を迎えた少年王と弟は、セバスチャンを引き連れさっさとその場を後にする。

すっかり機嫌を損ねているシエルはテーブルに肩肘をつきながら、転がったチェスの駒を手で弄ぶ。

「何が客人だ…。客を放っておく招待主があるか」

「まあまあシエルさん。どの部屋使えば良いか私が訊いてきますから!」

元気出して、と励ませば碧の隻眼が此方を軽く睨む。

「言っておくが、落ち込んでる訳じゃない。…それから、セバスチャンは呼びにいかなくていい。
あいつの事だ、5分しないうちに客室の案内に戻って来るだろう」

「そっか、そうですね」

「久しぶりにチェスの特訓でもするか。リユ、そこに座れ」

「え!良いんですか、わーい♪」

しかしそれから30分経ってもセバスチャンは現れず。
痺れを切らしたシエルを宥め、私は執事を探しに飛び出した。

外の光があまり届かない廊下は歩く度に靴音が響いた。

セバスチャンを呼んでくると言っても実は居場所が分からない。
まあ、適当に歩いていれば彼の方から見つけてくれるだろうと思っているのだけど。

「もー…何でこんなに薄暗いの…」

廊下と言っても、まるで通路に近い雰囲気の此処には、甲冑やら色褪せた絵画やらが無造作に飾ってある。
いつ物陰からお化けが出て来てもおかしくない。
まあ、もう出て来てはいるけれども。

と、その時。
ぽん、と肩に軽い音。
びっくりして飛び上がればクスリ、と笑い声がした。

「なっなな…!せばっ、セバスチャンさん!びっ、びっくりした…っ、もっとナチュラルに出てきて下さいよ!」

背後を振り返ると案の定。
燕尾服から一転、14世紀スタイルを華麗に着こなす執事が立っていた。

「これは失礼。自然に出てきたつもりなのですが」

「自然じゃなくて超自然でしょ!音も気配もしないなんて、もはやスーパーナチュラルじゃないですか。私が求めているのはナチュラル!です!お分かり!?」

「ところで。こんな所で何を?」

「あ!そうでした!シエルさんがご立腹なのでした!」


その後、セバスチャンはあくまでもシエルを客人として、客室へ案内した。
そして私は、てっきり使用人用の部屋へ行くのだと思っていたが、当てがわれたのはシエルの隣室だった。
シエルの部屋同様、きちんと手入れされている。

「リユ、坊ちゃんをよろしくお願いします」

セバスチャンは私の頭を軽く撫でてそう言った。
さっき驚かされたのは忘れてあげる事にしよう。
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