その姫、奔放2/5
「おい、僕らはただ此処を通っていただけだ。インド人は英国人を見れば見境なく襲う野蛮人なのか!?」
面倒な展開に怒鳴るシエル。
それを聞いたソーマはあっさりと態度を改めた。主がチビ共の味方をしろと告げれば、執事は一瞬で周りにいたインド人達を倒してしまった。
「終わりました。ソーマ様」
「よし」
頷いた王子は落ちていたシエルの帽子を拾い上げた。シエルはすっと投げられた帽子を受け取る。
「では、俺は人捜しの途中だからもう行く。ではな」
背を向けて立ち去るインド人主従。
彼らの背中をシエルとセバスチャンは呆然と見つめていた。
暫くして我に返ったシエルは他をあたるぞと歩き出す。
セバスチャンに降ろされた私は、二人について行く前に山積みになって伸びているインド人達に目を遣った。
“物みたいに捨てやがって…!”
「…………。」
こういう、後々の責任を持てない行為は誉められたものじゃないと解ってはいたが。
私はコートの内側から小さな袋を取り出し、山積みになった彼らの側にそっと置いていった。
「ゴミ呼ばわりされておいて…。物好きな奴だな」
「ええ、全くですね」
先を行く主従がそんな言葉を交わしていた事には気がつかなかったけれど。
その夜、タウンハウスへ帰ると、突然やって来た劉と一緒にインド主従の二人も現れた。
ベンガル藩王国の王子だと言うソーマ アスマン カダールに使用人のみんなは興味津々の様子。
昼間助けてやったのだから自分達をもてなせと言うソーマ王子に、屋敷の当主は仕方なく滞在を許可する。
執事に、彼らから目を離すな、と命を出して。
翌日、私はセバスチャンからヴァイオリンのレッスンを受けているシエルのもとへ乗り込んだ。
「な、なんだその格好は!」
「セバスチャンさんとお揃いのカヴァネスバージョンです」
チェーングラス付きの伊達眼鏡に、上品なブラウンのコート。
私の服装を見てシエルはヴァイオリンを弾く手を止める。
「ファントムハイヴ家のメイドたる者、家庭教師のフリくらい出来なくてどうします!」
「フリ、では困ります。坊ちゃんの練習の邪魔ですよ。早く着替えてきなさい」
「邪魔なら、もうあそこにもいるぞ」
シエルがヴァイオリンの弓を突きつける先には、ソーマとアグニが巨大な像を拝んでいた。
「お祈りしてるみたいだけど、えらいシュールな御神体だねぇ」
側で眺めながら劉が言う。
「私には生首を持って生首のネックレスを掛け男性の腹部の上で踊り狂っている女性の像、にしか見えないのですが」
セバスチャンの言葉に、拝んでいたアグニが振り返った。
「おい、僕らはただ此処を通っていただけだ。インド人は英国人を見れば見境なく襲う野蛮人なのか!?」
面倒な展開に怒鳴るシエル。
それを聞いたソーマはあっさりと態度を改めた。主がチビ共の味方をしろと告げれば、執事は一瞬で周りにいたインド人達を倒してしまった。
「終わりました。ソーマ様」
「よし」
頷いた王子は落ちていたシエルの帽子を拾い上げた。シエルはすっと投げられた帽子を受け取る。
「では、俺は人捜しの途中だからもう行く。ではな」
背を向けて立ち去るインド人主従。
彼らの背中をシエルとセバスチャンは呆然と見つめていた。
暫くして我に返ったシエルは他をあたるぞと歩き出す。
セバスチャンに降ろされた私は、二人について行く前に山積みになって伸びているインド人達に目を遣った。
“物みたいに捨てやがって…!”
「…………。」
こういう、後々の責任を持てない行為は誉められたものじゃないと解ってはいたが。
私はコートの内側から小さな袋を取り出し、山積みになった彼らの側にそっと置いていった。
「ゴミ呼ばわりされておいて…。物好きな奴だな」
「ええ、全くですね」
先を行く主従がそんな言葉を交わしていた事には気がつかなかったけれど。
その夜、タウンハウスへ帰ると、突然やって来た劉と一緒にインド主従の二人も現れた。
ベンガル藩王国の王子だと言うソーマ アスマン カダールに使用人のみんなは興味津々の様子。
昼間助けてやったのだから自分達をもてなせと言うソーマ王子に、屋敷の当主は仕方なく滞在を許可する。
執事に、彼らから目を離すな、と命を出して。
翌日、私はセバスチャンからヴァイオリンのレッスンを受けているシエルのもとへ乗り込んだ。
「な、なんだその格好は!」
「セバスチャンさんとお揃いのカヴァネスバージョンです」
チェーングラス付きの伊達眼鏡に、上品なブラウンのコート。
私の服装を見てシエルはヴァイオリンを弾く手を止める。
「ファントムハイヴ家のメイドたる者、家庭教師のフリくらい出来なくてどうします!」
「フリ、では困ります。坊ちゃんの練習の邪魔ですよ。早く着替えてきなさい」
「邪魔なら、もうあそこにもいるぞ」
シエルがヴァイオリンの弓を突きつける先には、ソーマとアグニが巨大な像を拝んでいた。
「お祈りしてるみたいだけど、えらいシュールな御神体だねぇ」
側で眺めながら劉が言う。
「私には生首を持って生首のネックレスを掛け男性の腹部の上で踊り狂っている女性の像、にしか見えないのですが」
セバスチャンの言葉に、拝んでいたアグニが振り返った。
「我々が信仰するヒンドゥー教の神、カーリー女神です」
「インドの神か?」
「シエルさん知らないんですか?カーリー女神は破壊神シヴァの妻で、悪魔を倒した力の女神様なんですよ」
神話系統の話なら昔、大抵の本は読んでいた。インド神話も少しの知識ならある。
「メイド殿はお詳しいのですね」
にこりと微笑むアグニ。シエルとセバスチャンは意外そうな顔で私を見る。
「因みにカーリー女神が持ってる生首は倒した悪魔の首ですよ。ね?アグニさん」
「はい。よくご存知なのですね」
「メイドで家庭教師ですから♪」
折角だからこの格好をいかして神話の一つや二つは語りたいよね。
私達が話していると、その間中拝んでいたソーマが立ち上がった。
「さっ、て」
王子はくるりと此方を振り返りシエルに向き直る。
「祈りも済んだし、出掛けるぞ!」
そのまま強引に、彼は暴れるシエルを引きずり扉へと向かう。
「だから僕は忙しいと言っているだろう!!」
荷物のように引きずられるシエルは、自由奔放な王子を怒鳴りつけていた。
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