眠り姫は夢から醒めたpart2 | ナノ
粉雪は溶けゆく1/2

ここの所、ずっと気にかかっていた事がある。


「リユ……」

シエルの声につられて、セバスチャンは窓の外へ目を遣った。
そこには雪の中、空を見上げながら突っ立っている少女の姿があった。

「ん?あれはシエルの使用人じゃないのか?」

「全く…何をしてるんだ、あんな所で」

シエルやソーマの言葉を耳に入れながら、セバスチャンは全く別の事を考えていた。

(まただ…また、気配が消えている)

あの晩もそうだった。
シエルの誕生日の夜、リユはセバスチャンが贈った懐中時計に目を見開いて動揺していた。
そして、ほんの一瞬彼女が心此処にあらずといった様子になった時、リユの気配が消えてしまったのだ。

生きている人間の気配が、“消える”など通常は有り得ない。
しかしその瞬間、確かに少女の気配は消えた。

セバスチャンの目の前にはリユが存在しているのに、まるで幻を見ているようだった。
それはあまりに儚く、吹けば消えてしまいそうで。
作ったような笑顔で懐中時計の礼を言う少女を、セバスチャンは抱き寄せた。

その途端、消えていたリユの気配が彼の腕の中で戻ってきたのが分かった。華奢な体を抱きしめながら、セバスチャンは安堵を感じていた。

勿論リユは、彼がそんな事を思っていたなど夢にも考えたりしないだろう。
当の悪魔さえ、“安堵する”という己の感情に疑問を抱いていたのだから。


「おいセバスチャン」

「…、はい。何でしょう坊ちゃん?」

主人の呼び掛けに意識を戻して微笑む。シエルは此方に背を向け、廊下を歩きながら告げた。

「僕は先に戻る。お前はリユを呼んでこい」

「御意」

頭を下げるとその隣りをソーマが駆けていく。

「待ってくれシエル…!」

追いかけていく王子を見送り、セバスチャンは屋敷の外へ向かった。

散らつく雪の中、リユはセバスチャンに気付きもせず瞳を閉じて夜の寒空を仰いでいた。
相変わらず、少女からは何の気配も感じられない。こんな状態でどこかへ行かれたら二度と見つけ出せない気がした。

気がつかぬ内に悪魔の中で大きくなっていたリユという人間への執着心。
それは当初抱いていた、遊ぶには不足ないという興味からの執着とは異なっていた。

いつの間にすり替わっていたのだろうか。いや、一体“何”とすり替わったというのだ。

らしくもない感情に振り回されながら、セバスチャンはリユの腕を掴む。
びくりと震えた小さな体。しかし、まだ気配は感じられない。
が、見開かれた彼女の柔らかな黒い瞳が自分を捉えた途端、消えていた気配が戻ってきた。

「凍死しますよ」

「……セバスチャン、さん」

どこかぼんやりした声でリユは彼の名を呟く。
セバスチャンが黙って見つめていると、彼女は掴まれている腕に視線を落とした。

「手、痛い、です」

「嗚呼……」

セバスチャンは華奢な腕を殊の外強く掴んでいた事に気付いた。それも無意識に、だ。

彼が無意識になどそれこそ普通は有り得ない。
彼女から手を離しながらそんな事を考えていた時だった。

とっさに伸びてきたリユの手がセバスチャンの手を掴んだのだ。
驚いてリユを見下ろす。

「あ……、」

すると、彼女自身も戸惑ったような顔をしてセバスチャンから手を引いた。
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