その姫、趨向3/3
カリーの品評会に注目が集まっているのか、会場以外は思ったより人が少ない。
私としては歴史を感じさせる展示品をゆっくり観賞してみたかったけど。今回は、あんまり遊んでいられない。
やっぱり、今までが脳天気すぎたのかな。
都合良く、私の思う時だけこの世界の流れを変えたいだなんて。
私は、アンジェラと女王、そしてその執事がどう繋がっているのかは知らない。
時が来ればアンジェラに問いただすつもりだったけど、もう、悠長な事ばかり言ってられないのかな。
ソーマは、展示されているカーリー神の像の前に立っていた。
私は離れたところから彼の横顔を眺める。
やっぱり、あれ程必死に探していたミーナに拒絶されたんだから辛いよなあ…。
でもあの王子様には心優しい執事さんがいるし。
それに、ソーマ自身だって本当は真っ直ぐで強い人だ。
この王子様は、私とは違う。
「アグニ…、お前は知っていて、俺とミーナを会わせまいとしてくれたんだな…」
誰にともなく呟くソーマ。
そこに、シエルがやって来た。
「何をしている」
後ろから声を掛けられソーマは隻眼の少年を振り返った。
「お前の執事が闘っていると言うのに、お前は逃げ出したままか」
「違う。反省していたんだ。俺は何も知らなかった。いや、知ろうとしなかったんだ。ミーナの気持ちも、アグニの思いも……」
「それが分かっているなら、何故ここで止まっている」
強い意志を宿した碧い瞳の伯爵は、背を向けて歩き出した。
「考えるんだな。自分の為に闘った執事に、主は何をすべきかを」
私は傍観者を決め込んでシエルが去っていくのを見ていた。
その時、私の背後からフィニの元気な声が聞こえてきた。
「あ、いたいた!王子様ー!!…あ!リユもここにいたんだ!」
「うん。ちょっと他の所観てました」
「リユも探してたアルよ」
「ほんとっ?ごめんなさい!」
メイリン達と一緒に私もソーマの近くに駆けていく。
「もう試食が始まってますだよ?」
「早くしねぇと食いっぱぐれちまうぜ!」
「はい、これ」
メイリンは皿に乗せたカリーパンをソーマに差し出した。
「オチビちゃんにもあるぜ。ほら、」
「わあ、ありがとーございます!」
バルドから渡されたカリーパンを食べると、中から出てきた柔らかなスパイスの香りが口に広がった。
「美味しいです!流石ですねぇ、執事サン」
ソーマもカリーパンを口に運ぶ。そうすれば、その口元は穏やかに緩んだ。
「うまい……お前達のカーンサマーのカリーは、とても優しい味がするなぁ」
今のところ、この物語の流れには何の支障も起こっていない。
きっと大丈夫。
悪い方へ転がらないよう私が注意していれば良い。
みんなの笑い声を聞きながら、ぎゅっと拳を握り締めた。
(本当は、決心するたび心の片隅はいつも震えてる)(弱さを悟られてはいけないのに)(変化が怖い、そしてそのせいで大切な人を失うことが何より怖い。その理由が私のすべて。)
(黒か白か。どちらが勝っても、私はきっと笑えない)
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