眠り姫は夢から醒めたpart2 | ナノ
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薄い雲の間から月が見え隠れする頃。

広大な屋敷の庭に佇むのは黒髪の少女。
羽織ってきたナイトガウンの裾が風に揺れる。

視線の先にある森からは木々の葉音が聞こえてくる。

「こんな夜中にどうしたのです?」

顔を上げると、いつの間にいたのか屋敷の執事が隣に立っていた。

「夏の夜だから、森に妖精でもいそうだなーと思って」

「シェークスピアですね」

「さっすがセバスチャンさん」

微かに草花の匂いを含んだ風が二人の間を吹き抜ける。

「それに、英国の夜って良いですよね。温暖化じゃないし過ごしやすいというか」

「温暖化?」

聞き慣れない単語に端正な顔が眉を顰めた。

「そうですよー!未来は大変なんです。…この世界の未来とはまた少し違うんだろうけど」

ふ、と目を細めて少女は執事から視線を外す。

「いつ、突然帰るか分かんないから、今のうちに夢心地気分を味わおうかと思って」

少女の横顔を眺め執事は穏やかな口調で問うた。

「不安そうですね。最近あまり眠れていないのでは?」

図星をつかれて押し黙る。頭上からはクスクスと笑い声が降ってきた。

「仰って下されば、ミントティでも持って行きましたのに」

「セバスチャンさんの親切は怖いです」

「おや。心外ですね」

「ミントティにオベロンの媚薬とか入ってたら私一生起きられないし!」

「嗚呼…確か戯曲に出てくる、目覚めて最初に見た者に惚れてしまうという薬ですね」

「そうですよ!そんなの怖いじゃん!」

すると執事は身を屈めて少女の顎を持ち上げた。

「なら一生眠っていれば良いのですよ。そうすれば、くだらない不安など忘れるでしょう?」


それと、と執事は少女の耳元で囁く。

「寂しがり屋な貴女の夢の中には、私が会いに行ってあげましょう」



(少女が見るのは、悪魔が現る夢見心地な悪夢)

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