眠り姫は夢から醒めたpart1 | ナノ
その姫、素性1/1

「それにしても…何なんだ?その服装は」

お屋敷で働くことが決まった後シエルは私に不思議そうに尋ねてきた。

服装?
それまで自分の格好になんて気が回らなかったけど私はジーンズと薄手のロングTシャツにパーカーという格好だった。

「なにって…普通の私服ですけど…」

と言いながら思い出したけれど、黒執事は確か19世紀後半が舞台。
多少のオリジナル要素はあるにしても、100年以上後の服装はこの時代では不自然極まりない。

「日本人と言っていたが日本ではそういう格好があるのか?」

「えっ、と… それは」

「いいえ坊ちゃん。最近の日本では日本伝統の着物だけでなく欧米にならった服も着られるようですが、彼女の着ているような服装は御座いません」

そうかと頷くとシエルは再び問うような視線を投げかけてきた。

う…っやばい…なんて答えたらいいんだろう。

この世界の事をよく知っている異世界から来ました!
なんて言ったら…だめだよなぁ、絶対。

悩んだ末に私の口から出たのはこんな言葉だった。

「…未来から来ました」

「は?」

そんな間抜け面でびっくりするなよ!
だって他に説明しようがないじゃん。

「ほぅ、未来、ですか。いつの未来からいらしたのですか?」

目をぱちくりさせているシエルの代わりにセバスチャンが興味深げに問いかけてきた。
悪魔でも未来には興味があるものなのか…


「21世紀、2009年の日本からです」

「本気で言っているのか?」

「はい」

「21世紀…」

まるで未知の言葉を呟くようにシエルがぽつりと口にする。

「そのような遙か先にも人間は存在するのですね」

淡々とした彼の口調にはどこか蔑むような感じがあった。

するとシエルは鼻で笑う。

「お前には好都合じゃないか」

意味ありげな視線のやり取りには、あえて気づかないふりをしておく。
だって怖いし…!!

「それでリユ。お前が未来から来た証拠は?」

え、証拠?そんなんないよ…

「この服装くらいしか…」

「確かに。見ない格好だがな」

これ以上質問されたらボロが出ちゃうし止めて!
と念じていたらある程度は納得したという表情で彼は椅子から立ち上がった。

……おい。ちょっと待ちな。
私シエルと身長ほとんど変わらないんですけど。
もしかして私の方がちっこい?

地味に傷つく私に気付かず、彼は控えている執事に声をかけた。

「彼女に部屋を。準備が終わったら僕の部屋に連れてこい」

「御意」

それではついてきて下さいと言った彼に続いて部屋を出た私は、再び広い廊下を歩いて別の部屋へとやって来た。

「今日から此処が貴女の部屋です」

さっきの部屋よりは小さいが、1人で使うには充分過ぎる広さの部屋だった。

「必要なものはこれから揃えていきましょう。今日は、ひとまずこれを着て下さい」

手渡されたのはメイド服。

「着替え終わったら声を掛けて下さいね」

「あ、はい。ありがとうございます」

背の高い彼を見上げると微笑み返されて心臓が跳ねた。
だって私、セバスチャンファンだったんだもん。
本人目の前にして、そんな笑顔向けられたら照れるじゃないか…!


それから5分後、私はゆっくりと扉から顔だけ出してセバスチャンを呼んだ。

「あの…セバスチャンさん…」

「どうしました?」

私の不自然な態度に首を傾げる彼を手招きする。

「…?」

部屋に入ってきた彼は一瞬動きを止めて私を見下ろした。

「あの…どうしましょぅ」

不安げな声で問いかけると彼はクスリと笑った。

「何も笑わなくても…っ」

「すみません、あまりにも可愛らしい格好ですから」

ツボに入ったのか彼はまた笑い始める。
まあ、笑いたくなるのも分かるけど…

私が貸してもらったメイド服はサイズが合ってなくて、小さな子どもがブカブカの服を被ってるように見えた。
特に腰回りがちゃんと締まってなくて余計にそう見える。

ひとしきり笑い終わった彼は

(何ががそんなにおもしろいんだよぅ…どうせちびですよ!)

な視線に気付いて、突然私の腰に後ろから手を回してきた。

「Σ…!!?」

思わずビクッと反応したら彼はクスリと笑った。

「細い腰ですね」

エロ…ッ!!!
なんだ、その無駄な色気は!
私を殺す気ですか。

「あ、あの…」

「リユ、 息、止めて下さい」

耳元で囁かれる彼の声。
そんなことされたら、永遠に止まってしまいますよ。

いまいち訳が分からないまま、言われたとおりに息を止める ――

「ぐぇ…っ!?」

腰が締め付けられる突然の衝撃に、意味不明な声が出た。
セバスチャンが腰回りのリボンを思いっきり締め上げたのだ。

「きつかったですか?しかし…」

くるりと自分の方に向けた私を見て彼は口を閉ざす。
腰はぴったりになったけれど、一瞬死ぬかと思ったし。
胸の周りは相変わらずブカブカ。どうせまな板ですよ!
そんな切なげな目でみるなぁあぁ!

「困りましたね。他に着るものは……少し待っていて下さい」

そう言って出て行った彼は、暫くしてドレスを抱えて戻ってきた。

「今日はこれを着て下さい。エリザベス様のものですが、サイズは大丈夫でしょう」

まじで!?私ってリジーとおんなじ体型なの…!?
セバスチャンは、よりによってピンクのフリフリドレスを手渡してきた。

「メイリンを呼びましょうか。それとも、私がお手伝いしましょうか?」

「け、結構です…!」

焦ってドレスを受け取った私に、彼はまたクスリと笑った。



(そんなに照れなくても)(てっ照れてません)(面白い人ですね)


(心臓がもたない…)

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