眠り姫は夢から醒めたpart1 | ナノ
その姫、謝罪1/1

「僕は言った筈だ。さっさと解決しろと」

しゃがみ込んで花の手入れをしていたら、我らがご主人様(?)が仁王立ちでこちらを睨んできた。

「なんのことでしょーか」

自分では可愛く微笑んだつもりなのに、彼は鼻で笑った。

「感じの悪いとぼけ方はあいつにそっくりだな」

「一緒にしないで下さい」

なんか傷つくよ、その言葉。

「というか、何でそんな気に掛けるんですか」

自分は関わらないって言ってたくせに。
わざわざ庭に出向いてまで言いにくるなんて。
するとシエルは不機嫌そうな顔になった。

「あの感じの悪さに耐えられん」

「え?」

「セバスチャンの態度がいつにも増して感じが悪いんだ」

「……早く喰わせろとか言われるんですか」

「馬鹿か。とにかくこちらに被害が及ぶのはごめんだ」

そんなはっきり言われたって。
彼が何に対して怒ってるのか、いまいち分からないし。

あれから2日経ったがセバスチャンは特に何も言ってこない。
というか、全く構われなくなった。
まるで最初から何事もなかったかのような態度。

そういう軽薄なところが、もの凄く悪魔らしい。
人とは感覚が違うんだろうなと改めて思った。

「そういえば!」

手についた泥を払って立ち上がる。

「今日はまだグレルさんとお喋りしてないんですよね」

「おい…っちょっと待て!」

怒鳴るシエルに背を向けて屋敷へ駆けて行った。


「グレルさーん」

廊下を歩いてる彼を発見。

「あ、ああ。リユさん」

「さん、はいらないですよ!リユで良いです」

「ですが、いつも仕事のフォローをして頂いてますし…」

彼が超の付く程ドジって事をテレビで見て知ってた私は、なるべく大惨事にならないよう影ながら手助けしていた。

「そんなの気にしないで下さい。好きでやってるんですから」

「はあ…」

おどおどしながら頷くグレルを見てると、あの赤執事と同一人物だとは想像もつかない。
一流の女優って言うのにも頷けた。

「ねぇグレルさん」

「はい?」

「グレルさんは、マダムのこと好きですか」

そんなこと聞くつもりじゃなかったのに気付いたら口が動いていた。

「そ、そんな恐れ多いです…!ですが奥様は大変お美しい方でございますっ!」

熱を込めて彼は語りだした。

「赤い瞳に赤い髪!そして何より赤いドレスがお似合いで!」

手を広げくるりと回って言葉を続ける。

「そう、それはまるで………ぶは…っ!!」

グレルは角を曲がって歩いてきたセバスチャンに激突した。

「全く…こんなところで何をなさっているのですか?」

「セバスチャンさんっ!も、申し訳御座いません!」

頭を下げる彼にセバスチャンは笑顔で一言。

「くだらないことをしている暇があるなら御仕事なさって下さいね」

その後、彼は一瞬何の感情もこもらない目で此方を見てから去っていった。


「……グレルさん」

「は、はい」

「ちょっと私、戦ってきます」

「は…?」

そう告げてから、広い廊下を走っていった。
勿論、追いかけるのは紅い目の悪魔。



「セバスチャンさんっ!」

やっと見つけた!
ていうか、歩くの速すぎる。

背の高い後ろ姿に向かって呼びかけたが、彼は振り返りもしない。
息を切らしていた私との距離は一向に縮まらない為、その場で叫んだ。

「気に入らない事があるなら言って下さい。なんで怒ってるのか分からないじゃないですか!」

歩みを止めない彼。

「私が勝手に出ていった事が気に入らなかったんですか?」

でも、いつも余裕なセバスチャンがその程度の事で怒るだろうか。

「ねぇセバスチャンさん!聞いてます?」

くそぅ…こんな時でも綺麗な後ろ姿が腹立つ。

「貴方に無視されたらもう泣きますよ!」

半ばヤケになって怒鳴ったら。
その歩みがぴたりと止まった。
同時に私も立ち止まる。

「セバスチャ…」

呼びかける前に整った顔が此方を向いた。
やっと、まともに顔を合わせた気がした。

「泣きなさい」

「は、い…?」

このヒト今なんて…

「泣けばいいでしょう?いつも憎らしいくらいに飄々としているんですから」

物凄く黒いオーラを出しながら微笑むセバスチャンに冷や汗が出た。

「どうして怒っているか?そんなの貴女が気に入らないからに決まっているでしょう」

ゆっくりと歩いてきた彼は私の顎を掴んで自分に向けさせる。

「この脆弱な身体も、感情の読み取りにくい瞳も笑顔も、全てね」

セバスチャンはその黒い笑みを更に深くさせた。

「そんな訳の分からない貴女は私だけ見ていればいいんです」

「い、意味が分からないんですけど…」

意外な言葉に動揺する。

「私以外に愛想を振りまくのはやめなさい。リユ、貴女を笑わせるのも泣かせるのも私だけで十分です」

理不尽極まりない事を告げるセバスチャン。
けれどその瞳に先程までの感情のない冷たい色はなかった。

だから。

少し嬉しいというか安心したというか。

「私、Mな素質無いんで、そんなこと言われても喜べません。でも」

そのまま彼に抱きついてみた。

「今、は ちょっと嬉しいです」

やっと名前を口にしてくれたから。

「この前は勝手に出ていってすみませんでした」

どんな顔してるのかは分からなかったけれど、上から降ってきたのは。

「本当に。貴女は変わった人です…」

呆れ半分諦め半分の久々に聞く優しい声だった。



(何をしている…)(ああシエルさん)(ああ、じゃない。誰が廊下で抱き合えと言った)(申し訳ありません。彼女に迫られまして)(迫ってないし…っ!)


(あれ?結局なんで怒ってたんだろ。ま、いっか)

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