その姫、帰宅2/2
「………」
沈黙に耐えらんない。
また何かくだらないことでも言ってみるか、
「リユ」
「はいっ!?」
「もう、勝手に出ていくんじゃない」
「はいすみませ…」
「お前の居場所は此処だ。それを忘れるな」
ぶっきらぼうな言い方。
でもそれは、なんだか温かい気持ちにさせてくれる言葉だった。
「で、いつまで突っ立っているつもりだ?」
「シエルさんと一緒に居たいから」
「嘘をつけ」
「そんな即答しなくても」
まあ、図星ですけど。
「だって気まずいじゃないですか…」
このまま使用人室に顔を出したらセバスチャンに会うかもしれない。
昼間は逃げまくったけど、今は別の意味で避けていたい。
「だってなんか恐いですもん」
「だってだってとうるさいぞ」
「だって」
その呟きが癪に障ったのか、シエルはいきなりソファから立ち上がった。
が、彼の口から出たのは意外な言葉。
「部屋まで送ってやる」
「まじですか」
急にどうしたの社長!
「だが、僕は面倒事が嫌いでな」
さっきの優しさはどこへやら。
にやりと口元を歪めた意地悪な笑み。
「あいつとの問題はさっさと解決しろ。勿論、僕は関わらないがな。これは命令だ」
「いぇす・まいろぅどぉ…」
目玉が飛び出るかと思った。
「そういえば言ってなかったな」
使用人室に着いた途端、視界にあり得ない存在が入ってきた。
硬直してる私を無視してシエルは簡単に説明してくる。
「マダムに頼まれてな、少しの間預かることになった」
「バーネット邸執事のグレル サトクリフと申しますです…っ!」
噛みそうになりながら慌てて自己紹介をしてくる彼。
これが私と、一見地味で気弱そうなこの執事さんとの出会いだった。
さて困った。
あの後バルドに謝ってグレルと軽い挨拶を済ませ、とにかく部屋に避難。
何でこうも次から次へとややこしくなるんだろう。
昨日までは穏やかだったのに。
グレルが現れたって事は例の事件はもう、すぐそこまで来てる。
じゃあ私はどうすればいい?
それが起きた時、私のとるべき行動は?
部外者の私が、この世界の流れをねじ曲げて良いのだろうか。
「………やめた」
考えたって仕方ない。とにかく今は、
「グレルさんに絡みにいこう!」
せっかく良いキャラが現れたんだから。
好き勝手に楽しもう。
所詮、私は部外者なのだから。
(グレルさーん)(はは、はははい…っ!!)(お友達になってくださいっ!)(えっ?はあ…、)
(セバスチャンとの事は後回し!だって……めんどくさい)
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