眠り姫は夢から醒めたpart1 | ナノ
その姫、保護2/2

ぐぅぅー……

「「………」」

ものすごく定番な音が、しんとした店に響いた。

「そういえばもうこんな時間か」

壁に吊られた時計は6時を指している。

「ちょっと待ってろ。なんか作ってきてやる」

「え、でも…っ」

クラレンスはそう言い残し店の奥に姿を消した。
どうしよう、バルド心配してるよな…
でも帰りにくいし。

色々思い悩んでいたが、彼の作った料理を見た途端、単純な私はすぐに忘れてしまった。


「なんでご飯!?ていうかコレお味噌汁と卵焼きですよね!?」

純和風なメニューを前に、ひたすらはしゃぐ。
だってだってだって!
セバスチャンのご飯は有り得ないくらいおいしいけど、やっぱ和食が恋しかったんだよ。

「いただきます」

お味噌汁おいしい…
貴方いいお嫁さんになるね!

「こっちじゃなかなか食えないだろ」

「この食材ってどこで仕入れるんですか?」

食べながら疑問を口にすると
「こういうとこの店主は色々繋がりがあるんだよ」
と意味ありげに言われた。


食後の紅茶を楽しんでいたら、(こういうところはやっぱりイギリスって感じ!)鈴の音と共に店の扉が開いた。

「悪い、まだ開店前…」

「メイドを迎えに参りました」

燕尾服の上からコートを羽織った彼は、凛とした声で店に入ってきた。

「セバスチャンさん…」

やばい。すっかり忘れてた。

「リユの上司か?」

「まあ…」

まさかセバスチャンが迎えに来るなんて。

「随分探しましたよ」

彼はクラレンスへと向き直り

「うちのメイドがご迷惑をお掛けしました」

口元の微笑はそのままに、すっと紅い目を細めた。

「帰りますよリユ。坊ちゃんがお待ちです」

「え、あ…」

セバスチャンは先に外へ出て行った。

「悪かったな、引き留めたりして」

クラレンスは閉まった扉を見ながら言った。

「いえ、それより今日は本当にありがとうございました」

頭を下げて出て行こうとすると、彼は何かを手渡してきた。

「これって、」

小瓶に入っているのはカラフルな金平糖。

「良かったらまたいつでもきな。但し今度は誘拐されないようにしろよ」

またなリユ、その言葉と一緒に私は店から出ていった。


日は沈み、群青色の空には月が浮かんでいた。
月明かりに照らされた道を私達は無言で歩き続ける。

気まずい。ていうかセバスチャン怒ってる?
後ろからでは彼の表情が伺えない。

すると彼は突然こちらを向いて立ち止まった。
冷たい目に射竦められる。

「それは何です?」

手に持っていた小瓶を一瞬で奪い取られた。

「随分、御機嫌でしたね」

パァン…ッ

「な…」

彼の手の中で小瓶が砕け散り、ガラスと星形の粒が宙を舞う。
きらきらと月明かりに照らされながら、やがて地面に落ちていった。

「何するんですか」

驚いて立ち尽くす私に、彼はいやな笑みを浮かべる。
そう、悪魔の笑みを。

「何も。ただ、気に入らなかったものですから」



(何なんですか…?)(気に入らないと言ったでしょう)(だから、何が)

(彼の行動の意味が、私にはよく分からない)
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