その姫、保護1/2
「叫んでんじゃねぇよ!」
私の腕を掴んでいる男が怒鳴りながら手を上げた。
殴られる…!
ぎゅっと目を瞑って顔を背けたが、その一撃がなかなか下りてこない。
不思議に思って目を開けると、振り上げられた男の腕を背の高い人影がねじあげていた。
「セバス、チャンさん…?」
夕焼けで朱色に染まった人影――
「レディ相手に手ぇ出すのは頂けないな」
「なんだとてめえ!離せ!」
両脇にいた男2人がナイフ片手に襲いかかる。
「危な…っ」
私が言うより前に、その人影は素早く身を引くと男達に回し蹴りをくらわせた。
「ぐあ…っ!!」
側の壁に叩きつけられ呻く男をよそに、今度は私の腕を掴んでいる男を蹴り飛ばす。
「行くぞ!走れ!」
背の高いその人は、私の腕を掴んで走り出した。
「待てッ!この野郎…ッ」
後ろでは男達の怒声が響いていた。
「着いたぞ。大丈夫か?」
走りすぎて息を切らす私の腕を離し、その人は声をかけてきた。
「あ、あの…っ助けて…くれて、ありが、とう…っ、ございました…っ」
顔を上げると、爽やかな笑い声と共に背をさすられる。
「ほんとに大丈夫か?頑張ったな」
夕日に照らされたその姿は、透き通るような空色の瞳に長めの金髪を後ろで束ねた青年だった。
うわっ!格好いい!美人さんじゃん。
「ここは俺の店だ。あいつ等が追ってきたら面倒だからな。暫く此処にいればいい」
古びた、小さなバーのような外観の店。
「チェリーブロッサム…?」
看板に掠れた文字で書いてあった。
「ああ、居酒屋にはあんまり似合わない名前だけどな」
と笑う彼に案内され店に入っていった。
「まだ開店前なんだ。好きな所に座っててくれ」
カウンター席に座ると、彼は水の入ったコップを差し出してきた。
「子どもだしな。酒は飲めないだろ?」
「ありがとうございます」
「まあ子どもっつっても17、8か?」
Σ……!?
「えっ、何で分かるんですか?私16歳です」
「昔、日本人の知り合いがいたからな」
「へぇ…あ、それでチェリーブロッサム…」
確か桜の花の事だったよなぁ。
「ああ、あんたも日本人か?」
その問いに頷くと、彼はカウンターに肩肘をついた。
「俺はつくづく東洋人に縁があるな」
それから何か思い出したように、空色の瞳をこちらに向け、
「そういえば名前を言ってなかったな。俺はクラレンス ミルズ。あんたは?」
「リユ スズオカです」
答えた私に、クラレンスと名乗った青年はふっと穏やかな笑みを向けた。
「そうか、よろしくな」
それはとても自然で、此処へ来てから初めて作り笑い意外の顔を見た気がした。
ただ、彼の顔色が悪いのは少し気にかかったけれど ――
†
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