眠り姫は夢から醒めたpart1 | ナノ
その姫、逃走1/2

「あ、いいですよメイリンさん。私が干してきますから」

「いいだよ。これはワタシが…」

断る彼女からなかば無理矢理(?)洗濯物を受け取った。


この前の事件から一週間経ち、シエルの怪我も回復して特に何も起こらないまま毎日を過ごしている。
すぐに例の事件がやってくると思ってたから逆にびっくりしたけど。


「それにしても良い天気だなぁ。イギリスなのに」

シーツ干そうとした途端、急に強い風が吹いた。

「ぅわ…っ!?」

風で広がったシーツが私に襲いかかる。

「ちょっと待…っ」

地面についたら汚れるじゃん!


ばさっ…

「……視界真っ白」

抵抗虚しく布の固まりを頭から被ってしまって何も見えない。
他の人が見たらシーツのお化けだと思うだろうな。

「あーあ、絶対汚れちゃってる」

まあ、一枚だけだしいっか。
そのままの状態で開き直ってたら、ふわりとシーツが持ち上がって誰かが入ってきた。

「おかしな物体があると思ったら貴女でしたか」

真っ白だった私の視界に現れたのは鮮やかな紅と黒。

「まったく。貴女は時々くだらないミスをしますね」

額に手を当て、ふうっと溜息をついたセバスチャンは、なんかこう、すごい絵になる。

「すいません。でもさっきのは風が悪いんです」

だってほんと私悪くないし。

「で、リユ。いつまでこうしているつもりですか?」

「セバスチャンさんが先に出てくれるまで」

そもそも何でこの人、入ってきたんだ。

「何故?」

何故だって!?貴方この前私に言ったこと忘れたんですか。

「セバスチャンさんに隙を作りたくないからです」

その言葉に彼は、ああ、と頷いた。

「ですから最近、私を避けていたのですね?」

そーですよ。いくら好きなキャラだったからって、そう簡単にファーストキスは渡せないんだ!

じっと見上げていたら

「心配なさらなくても、ただの冗談でしたのに」

と肩を竦めて言われた。

「へ?」

「この前は貴女の気が沈まないよう、少しからかっただけですよ」

本気にするなんて可愛いですねぇと笑うセバスチャン。

すっごく恥ずかしいんですけど。
意識してたのが自分だけだったとか。

「もういいです…っ」

赤くなった顔を見られないよう、くるりと後ろを向き被さってるシーツを退けようと手を伸ばした。

が、

ぐいっと、その手を後ろから掴まれ、気付けば目の前には紅い瞳。

「嘘ですよ」

「え、なっ何が…っ」

真剣な眼差しと至近距離に声が裏返る。

「私にも何故か分かりません。けれど貴女の存在にはとても興味をそそられる…」

掴まれていた腕を解放されたと思えば、今度は顎を持ち上げられた。

「私をそうやって翻弄する貴女がいけないんですから、キスくらいしたっていいでしょう?」

真剣な顔から一転、妖艶な笑みを浮かべる。

広い庭に私の叫び声が響きわたった。



「シエルさん…あの人に命令して下さい。私に近づくなって」

「それは無理だな」

こっちを見もしないで、シエルは紅茶を口に運ぶ。

ここに来てからアフタヌーンティーを彼と共にするのが日課になった。
なんか私と居ると暇つぶしになるらしい。

「なんで無理なんですか、シエルさんの言う事なら何でも聞くんでしょ」

「それは命令とはまた別だ」

「…このままじゃ、私のファーストキッスがぁー!」

演技っぽく大袈裟に言ってみたのに彼は相変わらず、しれっとしたまま。

「何だ。まだされてなかったのか」

「当たり前です!阻止したに決まってるじゃないですか」

セバスチャンとの身長差は意外と私に有利で、迫られる前に逃げられるのだ。

「リユもなかなかやるな」

「それはどうもぉ…」

笑みを向けてきた彼は私よりずっと大人びて見えた。


「休憩は終わりですよ」

にっこり微笑んでやってきたのは、今一番会いたくない人。

「さあ、リユ。貴女には手伝ってもら…」

「笑顔が素敵ですねーさすが男前」

椅子から立ち上がってダッシュで部屋を出る。

「シエルさんごちそうさまでしたー!私フィニの仕事手伝ってくるのでー!」

慌てて飛び出した私は
「あまり彼女を苛めてやるな」
とシエルが言ってくれていた事に気付かなかった。
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