その姫、意外1/2
すっかり気が動転しているヴェネルを見て、さっき頭をぶつけた所が再び痛み出した。
それとおでこ。銃を突きつけられていた所が。
平気で人に銃を向けるなんて最低。本物の銃向けられて怖かったし!
こいつ腹立つ…
気付いた時には床に転がっている銃を手に取っていた。
初めて手にした本物の銃は凄く重い。
「何して…」
眉を潜めるシエルと黙って見ているセバスチャン。
「な…ッ」
コンッ、と銃口をヴェネルの額に当てたら、彼は目を見開いた。
「冗談止めな…慣れないものは使うもんじゃねぇぜお嬢ちゃん…」
何も言わず、私はゆっくり引き金に指を掛ける。
「お、おい…っ!」
目の前には、焦りと恐怖にひきつる顔。
私はにやりと笑ってやった。
ばーんっ!!
………広い部屋に響いたのは、銃声じゃなくて私の声。
「「は…?」」
銃を投げ捨て、くるりと後ろを振り返った。
「仕返しです。だってこいつシエルさん殴ったりセバスチャンさん撃ったり私に銃突きつけたり…腹立つじゃないですか」
ヴェネルはすっかり気が抜け、ずるりと壁にもたれている。
ざまぁみろ!
べーっと舌を出したら、それまで黙っていたセバスチャンが笑い出した。
「全く貴女という人は…」
「てっきり撃ち殺すつもりかと…」
目が本気だったからな、とシエルは付け足す。
「そんな、私は殺したりしません。人殺しになるのは嫌だし、命を簡単に奪って良いとは思えないから」
そう言うと、シエルが顔を曇らせた。綺麗事は聴きたくないって顔。
けれど、続けて私が言った言葉に、彼の表情が変わった。
「あと、やっぱり自分の手を汚すのは嫌だし」
気分悪くは、なりたくないんです!と胸をはる。
「…訳の分からん奴だ」
「とんでもないジュリエットですね」
私の自分勝手発言に、すっかり意表をつかれた彼らは苦笑を漏らす。
私も、2人に笑みを向けた。
扉の側には男達の死体。極力それからは目を背けたい。
でも、これがこの世界では当たり前のように起こる事を、私はちゃんと分かってる。
ほんとは少し恐い。中途半端に先を知ってるからこそ暗い世界に足が竦む。
でも――
少しくらいは変えられるかもしれない。
目の前の悲しい過去を背負った彼や、笑顔の裏に重いものを抱えた人達をほんの一瞬、笑わせることくらいなら。
「帰るぞセバスチャン」
「御意」
あれ?なんか、頭がくらくらする…
「リユ…!」
遠くからセバスチャンが私を呼んだような気がした――
眩しい。
目を開けると窓から明るい光が射し込んでいた。
「あれ?此処どこ?」
ぼうっとしながらベッドから体を起こす。
「寝ぼけているのか。お前の部屋だろう」
声のした方に目を向けると、向かいの椅子に座ったシエルがこっちを見ていた。
「シエルさん…」
「軽い脳震盪をおこしていたんだ。暫く安静にしているといい」
安静にしてろって…
自分の方が酷い怪我してるのに。
あちこちに巻かれた包帯が、逆に痛々しい。
「何故、お前は僕を恐れない」
ふいに彼が言った。
「え?」
「まさか昨日のことを忘れた訳じゃないだろう」
シエルは気まずそうに私から視線を外した。
どうやら彼はすごく気にしていたらしい。私は、大丈夫って言ったのに。
「私に恐がって欲しいんですか?」
「それは…」
「私、シエルさんもセバスチャンさんも恐いとは思いませんから。彼が悪魔で、貴方が悪魔と契約してたとしても」
ごめんね。貴方達の事、知ってましたとは言えない。
あれ?でもよく考えたら私だけになるのか、この人達の秘密を知ってるの。
もしかしてシエルにとったら都合悪いのかな…
「誰にも言わないので監禁とかは勘弁して下さい。それは恐いです」
頭をよぎった嫌な考えを口にすると、彼は溜息をつきながら
「そんなことするわけないだろ」
と呆れたように言った。
良かった…
「じゃあ、これからもよろしくお願いします」
その時、扉をノックする音がしてセバスチャンがやってきた。
「おや、お目覚めでしたか」
にこりと微笑んでから
「お話は出来ましたか?」
と彼はシエルに問いかけた。
シエルは頷きながら椅子から立ち上がる。
「それじゃあ僕は失礼する。まだ仕事があるからな」
「あ、はい。ありがとうございました」
†
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