眠り姫は夢から醒めたpart1 | ナノ
その姫、誘拐1/1

朝起きたら置いてあったサイズの合うメイド服を着て、現在全力疾走で廊下を走る私。
鼠が出たと大騒ぎのバルド達に巻き込まれ、広い屋敷で鼠を追い回す。

「今日お客さん多いから静かにしとくよう言われてませんでしたー?」

「それより鼠だ!放っておいたら大変なことになるぞ」

みんな体力ありすぎ…もうだめだ。
その場に座り込む私に気づかず、彼らは角を曲がっていった。

「疲れる…」

運動とか苦手なのに。


「リユ?」

後ろからの声に慌てて立ち上がり振り向くと、シエルとセバスチャンが歩いてきた。
そして、2人の後ろにいた人物を見て思わず固まった。

「あら?見ない顔ね。新しい子?」

赤いドレスを身に纏った赤い髪の美女。

「はいマダム。昨日からここで働くことになったメイドです。リユ、御挨拶なさい」

「初めまして、リユ スズオカです」

「おやおや、随分可愛らしい家女中じゃないか」

「リユ、こちらは坊ちゃんの叔母上アンジェリーナダレス様、こちらは中国貿易商コンロン英国支店長の劉様です」

知ってますとも!
なんて言えないので静かに頷いてたら、マダムに急に抱きつかれた。

「なんか可愛いわねーあんた年いくつ?」

「16です…」

「うっそホント!?随分若く見えるわねー羨ましいわ」

「なら、我が手を出しても良い年だねぇ」

劉が爽やかに言うと、シエルは呆れたように溜息をついた。

「やめろ」

「やだなー冗談だよ」

「そろそろ行くぞ」

「リユ貴女は、あの使用人達に仕事をするよう言っておいて下さいね」

セバスチャン、目が笑ってないですよ。

「はい」

みんなが去っていくのを見届け、ふと何か引っかかるものを感じた。
が、

「まてー!ねずみー!!」

フィニ達の大声が聞こえ私はまた、そっちに気を取られた。



「貴方達も遊んでないで仕事なさい」

一撃で鼠を捕まえたセバスチャンがそう言って、私はやっと気付いた。

今日はあの日だ。

やばい。シエルがボコボコにされる!
気付いた時には走り出していて、後ろから呼びかけられるのにも、答えられなかった。


「シエルさん!」

ノックも無しに部屋へ駆け込む。

「…!!」

荒らされた部屋に気絶した彼を抱えた男達。
まさに誘拐現場。

「…っ」

声をあげようとしたら後ろから口を塞がれてしまった。
意識が遠のいていく ――




血の臭いがする。
それとこの声は――


「セバスチャ…ン?」

目を開けると、1人の男が彼に銃を向けていた。

「嗚呼、お気付きになりましたか。無事で何よりです」

優しい笑顔を向けられ、我に返る。
私は体を縛られて床に転がされていた。

なんで捕まってるの…情けなくてガクっとくる。

「なんだ?このメイド、アンタの妹かい?」

に、しては似てねーなと馬鹿にしたような視線を送ってくる男。

アズーロヴェネルだ…

当たり前でしょ!
何が妹だ。そんな美人と一緒にすんな!

「妹ではありませんよ、ヴェネル様。彼女はジュリエットです」

ジュ、ジュリエット!?
驚く私とは対照的にヴェネルは笑い出した。

「うまいこと言うねぇ。なるほど。オレはロメオの恋人まで、さらっちまったって訳か」

なら、と私は額に銃を突きつけられた。
髪ひっぱんな!いーたーいー!

「この小娘と引換だ。アンタには主人よりこっちの方がいいだろ!?」

ヴェネルの言葉に、はっとして横を向くと痛々しい姿のシエルがいた。

「シエルさん…!」

「僕は平気だ。それよりセバスチャン、早くあれを」

その言葉に、彼は鍵を取り出した。


Σバァン ―ッ!!

耳を塞ぎたくなる銃声が部屋に響き渡る。

目の前で銃弾を浴びる彼。
テレビ画面を通して観るのとは違う生々しさに、分かっていても思わず身震いした。

どさっと床に倒れた彼を見て、ヴェネルは機嫌良く笑い出す。
死体見て笑うとか最低。まあ、死体じゃないけど。

「悪いなロメオ。このゲームオレの勝ちだ。相手はゲームの達人ファントムハイヴだ。オレも切り札くらい持ってたさ」

掴まれていた手を離され私は床に頭を打った。

「痛…っ」

しかも、ごぉんって…
睨みつけてるのに気付かず、今度はシエルの頭を掴んで、ヴェネルは不敵に喋り出す。

が、

「おい、いつまで遊んでいる」

シエルの言葉が、その場を凍り付かせた。

「いつまで狸寝入りを決め込むつもりだ」

倒れている執事から、シエルは私に視線を移した。

「お前が此処にいることは誤算だった。が、仕方ない」

その言葉を合図に。

「最近の銃は性能が上がったものですね。100年前とは大違いだ」

ゆっくり起きあがって、口から銃弾を吐いたセバスチャン。
普通に、こわい。

「お返ししますよ」

「何してる、殺せえー!」


数秒後、銃を手にしていた男は全員倒れた。
後はテレビで見たままの光景だった。

セバスチャンは、シエルの拘束を解いてから私の拘束も解いてくれた。
素手でブチって……うん。何も言わないでおこう。

「恐い思いをさせてしまいましたね」

あやすように彼は頭を撫でてくる。

その時、ヴェネルが必死にセバスチャンに自分につくよう言ってきた。
もちろんばっさり断られたけど。

悪魔を目の前に、完全に腰を抜かしたヴェネル。


「残念だが、ゲームオーバーだ」

言い放った後、シエルは私に、その青と紫のオッドアイを向けてきた。

一瞬の気まずい沈黙。
それを消すように、私は立ち上がって

「大丈夫ですよ」

その場に似つかわしくない明るい声で言った。

「今見たことは誰にも言いませんから。言っても信じる人もいないだろうけど。それより、役に立たない上に、仕事の邪魔になってすみませんでした!」

さっきまでの緊迫感をぶち壊してしまった私を、シエルとセバスチャンは呆然と見つめ返してきた。



(リユ、お前は…)(変わった方ですね)(え…)


(何か私、毎回変人扱いされてる…?)

[戻る]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -