眠り姫は夢から醒めたpart1 | ナノ
曇天の、霹靂1/3

「羊め…」

訳の分からない事を呟いてからリユはゆっくりと夢の中へ落ちていった。

彼女の頭に片手を乗せていた執事は、白手袋の長い指をリユの首元へ移動させる。
襟元のリボンがなくなっているそこからは白い肌が覗いていた。
しかし彼女の鎖骨辺りは僅かに血で滲んでいる。

セバスチャンは眉を寄せ、寝息をたてる少女の顔を見下ろした。


「…セバスチャン」

「坊ちゃん。起きていらしたのですか」

執事は正面に座る主人に向き直って微笑んだ。
シエルは碧の瞳を開いて不機嫌に呟く。

「気付いていただろうが。…わざとらしい」

馬車の中には柔らかな朝日が差し込み、眠る少女達の顔を照らしている。
昨夜の事件からは想像出来ない、穏やかな光景だった。

しかし許嫁を膝の上に乗せる伯爵の表情は険しい。その眼は執事の膝で眠る小さなメイドに向けられた。

「…リボンがなくなっている」

リユのメイド服はメイリンと違い、シャツにリボンが付いているタイプのものだ。
胸元にリボンの付いている方が可愛いと煩く言うリユに、わざわざ仕立てたものだった。

「折角坊ちゃんが認めて下さったのに、無くしてしまうとは困ったメイドです。なんならお仕置きなさいますか?」

きらきらした笑顔で、セバスチャンは眠るリユの頬を抓り引っ張った。

「おや。よく伸びますねぇ」

顔を顰めて唸る少女に対し、執事は酷く楽しげである。
そんな様子に小さな主人は溜め息を吐く。

「止めろ。シャツでもリボンでも、幾らでも支給してやればいいだろう」

シエルの言葉にセバスチャンはリユの頬から手を離した。

「お優しいですね、坊ちゃんは」

「違う。その程度の事をとやかく言うのがくだらないだけだ。それに、問題はそこじゃない」

微笑を浮かべていたセバスチャンの顔からすっと笑みが退いた。

シエルは一度エリザベスに目を落とし、許嫁が眠っているのを確認してから再び口を開く。

「あの晩、彼女を襲おうとした犯人は突き止めたんだな?」

以前、ファントムハイヴ家当主でなく、メイドであるリユを狙って、屋敷に侵入した一匹の野良犬。
シエルはリユに勘付かれぬよう内密に、セバスチャンに野良犬の正体を調べさせていた。

そして昨夜、執事と合流した時に彼の口から聞いたのだった。
野良犬が何者が突き止めたと。

シエルの脳裏に昨夜のやり取りが浮かんだ。
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