眠り姫は夢から醒めたpart1 | ナノ
静かに流れる涙にキス

「それにしても…。また余計な仕事を増やして下さいましたね」

庭に散らばるバラバラになった石像にセバスチャンは呆れながら呟いた。
主人の悪戯にも困ったものだ。

その手にタルボットのカメラを持ち、執事は頬杖をついて無防備に眠る主人にシャッターを切った。

「さて…」

シエルをベッドに運び寝かしつけた彼はそのまま別の部屋へと向う。

扉をノックするが反応はない。
もう寝ているのだろうか、部屋に入るとベッドの布団が小さく膨らんでいた。

「リユ…」

静かに寝息をたてる少女の額に手を乗せる。
どうやら熱は下がったようだ。

「……?」

紅茶色の眼がリユの頬を伝うものに気付いた。
閉じられた瞳から、涙の後が一筋残っている。

「何故、泣いているのですか」

白い手袋を嵌めた指が頬を撫でると、小さな体が身じろいだ。

「なんで…」

か細い声が部屋に響く。
寝言だとすぐに分かる弱々しい呟きも彼の耳にははっきりと届いていた。

「なんで私を置いてくの…、」

夢の中で魘されているのか、次第に声が大きくなっていく。

「ねぇ、なんでっ…置いてかないで…っ」

突然伸びてきた腕が、セバスチャンの手を掴んだ。
彼は一瞬、驚いたように目を丸くしたが、その腕を掴み横から抱き締める。
寝ぼけているのか、少女は自分を支えるその腕をぎゅっと抱きしめ返した。

「なんで…、お願いだから一人にしないで…」

震える少女の耳元に口を寄せ、セバスチャンは低く静かに囁いた。

「リユ、私はここに居ます」

「…っ、」

しがみつく彼女の震えが収まっていく。
暫くそうしていると再び寝息が聞こえ始めた。
悪夢は過ぎたようで、穏やかに眠る少女をセバスチャンはそっと寝かしつけてやった。


あれ程泣かないと言っていた彼女は、夢に魘されて簡単に涙を流した。
どうやら外側からの衝撃には強くても内側は酷く脆いらしい。
あまりにも人間らしいその姿に、彼は笑みを零す。

「一人にしないで、ですか…」

ふと頭をよぎったのは、死者を映すという呪いのカメラ。
異界から来た風変わりな少女の隣には、一体誰が映るのだろう。

「貴女の全てを知るのはそう遠くないかも知れませんね」

すがりつくように抱きついていた少女の感覚を思い出し、悪魔は闇の中で笑った。

リユの顔を引き寄せて涙の跡に舌を這わす。
悪魔はそっと、瞼に口付けた。


(唇は、次に貴女が私の前で泣いた時に頂きます)

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