眠り姫は夢から醒めたpart1 | ナノ
変わってゆく思いと心1/3

今一度、自分に仕える悪魔に忠誠を誓わせ、彼は決意を新たにした。
迷う事も振り返ることも何もない。
ただ一つ、あの少女の存在を除けば。


「お前はどこまで知っていたんだ」

タウンハウスの書斎で、シエルは執事に問いかけた。

「リユの、あの少女の正体はなんだ」

真剣な碧の瞳と対照的に、紅の瞳は楽しげに細められる。

「彼女は此方の世界の住人ではないようですね」

あの時の光景がシエルの脳裏に蘇った。

マダムに斬りつけられるデスサイズの前に、不意に飛び出してきた小さな黒い塊。
それ程長くない黒髪が風に流され隠れていた横顔が見えた瞬間、彼を言いようのない衝撃が襲った。

リユが刺されたのだと思った。
結果的に彼女は無傷だったけれど。


「何故、彼女が僕達をつけていたと知らせなかった」

あの場所に彼女が居たのは、自分達をつけてきたからだとしか考えられない。
と言う事は、セバスチャンがリユに気づかない筈がないのだ。

鋭い視線を向けるシエルに、セバスチャンは形の良い唇を釣り上げた。

「彼女を連れてくるなとは言われませんでしたので。それに坊ちゃん。私は此処へ来る前、面白いものが見られると申した筈です、が」

彼の言葉を遮るように、分厚い書物が空を切る音を立てた。

「………」

白手袋の中に収まったそれを見つめ、セバスチャンは溜息を吐く。

「お行儀が悪いですよ、坊ちゃ…」

「黙れ!」

椅子から立ち上がり、シエルは長身の執事を睨みつけた。

「僕が言わなかったから?はっ、ふざけるな!わざとらしい」

セバスチャンに歩み寄り、腕を伸ばして彼の胸ぐらを掴んだ。

「面白いものだと!?あれで、あれでもしもリユが斬られていたら一体どう、……っ!!」

自分を見下ろす冷たい目に、シエルは言葉を切った。
暫しの沈黙の間に高ぶっていた感情が冷静さを取り戻す。

力無く、燕尾服を掴んでいた手を離し、彼は椅子に座り直した。

今、自分は何というつもりだったのだ?
執事に突っかかってまで彼女を心配していたのだろうかと、思わず口に手をやった。

「…もういい。下がれ。マナーハウスへ帰るぞ」

「御意」

部屋を出ようとした執事をシエルは後ろから呼び止めた。
振り返った紅い瞳の悪魔に彼はいつもの冷静さを取り戻した声で告げる。

「彼女を屋敷に置くと決めたのは僕だ。余程の害を及ぼす存在でない限り、責任は取る。リユはファントムハイヴのメイドだからな」

主人の言葉にセバスチャンは口元を緩め頭を下げた。

「イエス マイロード」
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