眠り姫は夢から醒めたpart1 | ナノ
天使の秘密

「ねぇセバスチャンさん」

振り返りもせず彼女は言った。

「はい。なんでしょう」

天使の格好をした小さな後ろ姿に返事をする。

「私、自分も大概いやらしい性格だなーと思いました」

表情は伺えないが、いつものように笑顔を作っているのだろう。

ふいに、リユが此方を振り返る。

「そーゆうトコは貴方と一緒ですね」

嗚呼…まただ。
何を考えているのか理解し難い瞳を見つめ返した。

「エリザベス、様は?」

「彼女は寝ておられます。グレルさんがもうすぐお送りすると…」

彼の名を出すと、彼女は苦笑を浮かべた。

「大丈夫なんですか、グレルさんに任せて」

「彼が“出来る”と言った時は“出来る”んじゃないですか?」

思わず口角を上げた私に彼女は複雑な視線を送ってきた。

着替えてくる、そう言って私の側を通り過ぎる彼女を呼び止めた。
戸惑う少女に手を差し出す。

「一曲お相手願えますか?天使さん」

何を思っているのか知らないが、今だけは全て忘れるといい。
貴女の秘密を暴く時は、もう近づいているのだから。




「何?リユを連れて行くだと?」

執事の言葉にシエルは目を見開いた。
その手にあるのは女王からの指令。

「ふざけるな。遊びじゃないんだぞ、それに…」

先を濁す彼に、セバスチャンは微笑を浮かべた。

「彼女を巻き込みたくはない、ですか?」

「…っ違う」

彼を見下ろす紅い瞳が妖しく光る。

「あの少女から目を離すな。それが貴方からの御命令。ならば当然、傍に置いておかねばなりません」

「なんだ。目を離したら彼女が屋敷を破壊するとでも言うのか」

シエルは鼻で笑った。
わざわざロンドンに、それも女王の命で動かねばならぬ時に、彼女を連れて行く必要はない。
確かに最初は怪しんでいたが、近頃は彼女に対する警戒心も殆どなくなっていたのだ。
それを察したようにセバスチャンは口を開く。

「彼女を気に入っておられるのは存じています」

「気に入ってなど」

不機嫌な主に、セバスチャンは言った。

「しかし、そろそろあの風変わりなレディの秘密を暴く頃合いだと思いますが?」

秘密。
リユは何か隠し事をしていると、最初に執事が言っていたのを思い出す。
今まで問いただした事はなかったが―

「坊ちゃん。貴方は享楽に貪欲だ。彼女もまた、貴方を楽しませてくれるものを隠しているかもしれませんよ」

「……悪趣味め」

その呟きを紅い瞳の悪魔は、了承の言葉と受け取った。


(あの瞳に、飽きる前に)(退屈は敵。享楽に貪欲なのは、その悪魔。)

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