それぞれの思い1/3
セバスチャン視点自分でも手に負えない何かが、胸の奥で燻っていた。
こちらを見上げてくるリユの瞳と向き合っていると、何かが爆発しそうになる。
セバスチャンはそれを押し殺し、懐中時計を取り出した。
「嗚呼、もうこんな時間ですか」
彼女のか細い腕を掴むと一瞬身を震わせたのが分かった。
それが更に彼を苛立たせる。
自分の正体を知られてから、リユが怯える様子は一度も伺えなかった。
どこか食えないところはあったが、セバスチャンに向けられるのは大抵笑顔だったのだ。
しかしそれは、先程居酒屋で笑っていたような、自然な笑みではなかったが。
「帰りますよリユ。坊ちゃんを待たせてはいけませんからね」
それはまるで、自分自身に言い聞かせるような言い方だった。
(気に喰わない。貴女のあんな笑みは)
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