新商品1/2
私がこの世界の事を知っているのは、テレビで観ていたからだ。
だから普通なら知らないような事も知っている。
でも、よくよく考えればそれはテレビで映されていた事限定な訳で。
「何この部屋!すごいメルヘンですね」
ファントムハイヴ邸に、こんな可愛らしい場所があるなんて知らなかった。
「我が社の製品だ」
私の後ろに立っていたシエルが口を開く。
「坊ちゃんは、製菓・玩具メーカーのファントム社を経営なさっています」
勿論、知ってますとも!
実物が見れるとか嬉しすぎ。というか可愛い…
広い部屋にはファントム社の製品がずらりと並べられていた。
これは小さい子じゃなくても興奮する。
「今日はメイドの仕事はしなくていい」
「え、なんで」
「リユには新商品開発の仕事を手伝ってもらう」
はい…?
シエルの言ったことが理解できずに私は瞬きをした。
「折角、未来からやって来たんだ。リユにはその知識を存分に生かしてもらおうじゃないか」
にやりと笑う彼は、そのままソファに腰掛けた。
「我が社の利益の為ご協力願おう」
「…役立たずって思ってるでしょ」
向かいに座っているシエルに目を向ける。
「無視ですか」
「ああ…」
ああって!
それはないよ社長。
「だって私、おもちゃで遊ぶ歳じゃないし」
いざアイデアを求められると、何も思い浮かばない。
それにファントム社の製品は、あちらの世界でも通用するようなものばかりだ。
古い感じのしない抜群のセンスに、斬新なアイデア。
それを今、目の前にいる少年が生み出しているなんて本当にすごい。
「こんな立派になって。おかーさんは嬉しいです」
「誰がお母さんだ」
素早く突っ込みを入れた彼だったが、一瞬切なげな顔をした。
しまった。
私は自分の言動に後悔する。
静かな部屋に微妙な空気と沈黙が流れた。
「お前は…、僕に何も聞かないんだな」
シエルは口元に皮肉な笑みを浮かべる。
何も聞かないとは家族の事だろうか。
それとも幼くして裏仕事をしていることか、悪魔との契約理由か…
多すぎて分からない。
「気にならないのか?」
「そんなことは、ないです。私、好奇心の固まりですから」
でも、と立ち上がって彼の横へ腰掛ける。
「誰にだって秘密はあるし、訊かれたくない事だってあると思います」
「リユにも、か」
碧の瞳がこちらを覗き込む。
「そうですねー、でも私根性無いからなぁ。しつこく訊かれたら話すかも知れません」
笑いながら言うと、そうか、とだけ返された。
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